2023年度「研究助成報告書」
Ⅰ.一般部門
A.福祉の向上関係
(1)令和4年度(2022年度)1年助成
ケアハウスおよびサービス付き高齢者住宅における終末期ケアへの
体制構築に向けた実態調査
研究代表者大阪信愛学院大学看護学部 教授 長尾 匡子
共同研究者
大阪信愛学院大学看護学部 竹中 泉
大阪信愛学院大学看護学部 西田 頼子
大阪信愛学院大学看護学部 山本 祐子
■要旨
一般(自立)型ケアハウスやサービス付き高齢者向け住宅に入居する高齢者と施設職員に面接調査を行い、施設で最期を迎えることや看取ることについて質的に分析した。また、職員に死にゆく高齢者へのケア態度と医療介護福祉の地域連携について質問紙調査した。入居高齢者からは【この施設で最期を迎えたい】、職員からは看取り実施には【看護師と介護士の連携の必要性】【介護士確保と育成への課題】が語られた。質問紙調査では、看取り経験のある職員は死にゆく高齢者へのケア態度が高く、医療介護福祉の地域連携との相関も見られた。全体的に看取りを実施している施設は少なく、看取り経験が死にゆく患者へのケア態度への積極的な態度につながるような支援が必要であるとの示唆を得た。
介護老人福祉施設における外国人介護人材登用における課題と展望
研究代表者京都ノートルダム女子大学現代人間学部 教授 三好 明夫
共同研究者
龍谷大学短期大学部 中村 美智代
宝塚医療大学 寺上 典枝
宝塚医療大学 三好 このみ
■要旨
本研究の目的は、外国人介護人材の労働環境の実態を調査、分析し、安心して働ける環境を考察することで結果として良質な介護サービスが提供されて、要介護高齢者のQOLの向上を目指すものである。調査対象は大阪府下の介護老人福祉施設59施設とし、Web調査(Googleフォーム)を用いて実施した。その結果、アンケートの各項目に相互の関連を探るためクロス集計で関連性があったのは「施設種別(広域型/地域密着型)」「所在地域(中心市街地/その他)」「提供(併設)サービスの種類」「利用者数(平均以上/以下)」の4項目であった。外国人介護人材については、介護現場での教育や研修は、短期入所療養介護サービスを提供している施設が導入後に施設内研修を実施している頻度が有意に高いこと。有資格者は少ないが、今後は国家資格取得によるサービスの質の向上とそれに伴う加算算定が施設に必要であることなどが挙げられ、外国人介護人材の受け入れ意義が示された。
B.健康の維持・増進関係
(1)令和4年度(2022年度)1年助成
地域在住高齢者のフレイル問題解決に向けたスマートフォンを活用した
下肢筋力測定の試み
研究代表者桃山学院教育大学人間教育学部 教授 灘本 雅一
共同研究者
天理大学体育学部 教授 中谷 敏昭
阪和第一泉北病院 認知症疾患センター長 三木 哲郎
京都先端科学大学健康医療学部 准教授 新野 弘美
太成学院大学人間学部 講師 村田 和隆
南海電鉄泉北事業部 課長 今中 未余子
■要旨
加齢の影響を受けやすい下肢筋力を自宅で簡便にセルフ測定出来れば、フレイルの早期発見に繋がるものと考えた。そこで本研究は身の回りにあるスマートフォンに内蔵されている3軸(上下・前後、左右)加速度センサーから加速度を計測し手軽に下肢筋力を計測できる可能性を検討した。スマートフォンの加速度計測機能を活用した測定方法の信頼性と妥当性の検討を行った(研究課題1)結果、椅子から立ち上がる際の加速度計測の再テスト法を用いた試行間信頼性は(ICC:男性0.713、女性0.578)と中程度で有意な関係性が認められた。また、基準関連妥当性として用いた椅子立ち上がり時の力発揮速度とは、有意な正の関係が認められた(男性r=0.436、女性r=0.590)。下肢筋力の加齢変化も男女ともに20歳代をピークに60歳代以降低下したことから、在宅で日常生活動作に必要な椅子から立ち上がる動作中の加速度から下肢筋力を評価する可能性を得ることができた。
高齢者はどんな運動をどれだけすれば良い?
−個々人に最適な運動プログラムを立案する人工知能の開発
研究代表者大阪公立大学医学部医学科整形外科学 病院講師 玉井 孝司
■要旨
2つの前向きコホート研究の後方指的解析により、高齢者に頻度の高い運動器疾患である腰椎椎間板ヘルニア/腰部脊柱管狭窄症患者に対しては慢性腰痛症への移行を予防する積極的な体幹トレーニングや有酸素運動が有効であることを解明した。また、高齢者において同様に頻度の高い頚椎症性脊髄症患者に対する運動療法プログラムとして、患者特有の社会生活機能を回復/創出するような介入が非常に効果的であることも判明した。並行して行ったDeep learningアルゴリズム確立研究では、専門医よりも高い精度で単純レントゲン写真から頚椎症性脊髄症頚椎症性脊髄症を検出するDeep learningアルゴリズムにも成功した。今後はこれらの知見を統合しつつ、さらにサンプル数を集めて言語モデルとして信頼性の高い、個々人に最適な運動プログラムを立案するDeep learningアルゴリズムの開発を続けていく必要がある。
没頭状態からの脱却を支える神経基盤の解明から、
高齢者のリスク回避能力の向上を目指す
研究代表者
大阪河﨑リハビリテーション大学 リハビリテーション学部 理学療法学専攻
講師 大篭 友博
共同研究者
大阪河﨑リハビリテーション大学 リハビリテーション学部 作業療法学専攻 白岩 圭吾
■要旨
ヒトは日常的に外部からの刺激に対して注意を切り替えている。健常成人の場合、注意課題を与えられると前頭正中部に6-8Hzのθ活動(Fmθ)が強く生じることが知られている。このFmθパワーは注意欠如・多動症や自閉症において増強され、高齢者ではむしろ低下する。即ち健常成人の脳にはFmθパワーを適切に調節する機構が備わっていると考えられるが、その詳細は明らかにされていない。本研究では9名の健常成人に対して注意課題を与え19箇所から脳波データを取得した。独立成分分析と高速フーリエ変換後のパワー値を用いて半自動的にFmθ陽性期間を抽出する方法を確立した。eLORETA解析によって、Fmθの電流源密度は内側前頭前野で有意に高いことが明らかになった。さらに課題の途中で注意を切り替えると、同領域の電流源密度は有意に低下した。健常成人の脳にはFmθパワーの適切な制御機構が備わっているが、加齢や発達障害などではこの制御機構に異常が生じている可能性が考えられる。
高齢者の頭部挙上筋力は誤嚥・喉頭侵入を予測可能か
研究代表者兵庫医科大学大学院 医療科学研究科 大学院生 栄元 一記
共同研究者
兵庫医科大学 リハビリテーション学部 永井 宏達
兵庫医科大学医学部 リハビリテーション医学講座 内山 侑紀
兵庫医科大学医学部 リハビリテーション医学講座 道免 和久
■要旨
本研究の目的は、専門機器を用いずに測定可能な頭部挙上筋力が高齢入院患者の誤嚥・喉頭侵入を予測可能か調査することである。対象は、嚥下造影検査を受けた65歳以上の高齢者50名。頭部挙上筋力の評価として、最大頭部挙上反復回数、最大頭部挙上維持時間の測定を行った。アウトカムは摂食嚥下障害臨床的重症度分類(DSS)とした。目的変数をDSS、説明変数を頭部挙上筋力(最大頭部挙上反復回数、最大頭部挙上維持時間)、年齢、性別とし、それぞれ重回帰分析を行った。頭部挙上筋力が誤嚥の有無を判定できるか調査するために、ROC曲線での分析を行い、カットオフ値、感度、特異度および曲線下面積(AUC)を算出した。その結果、最大頭部挙上反復回数は、年齢、性別で調整した後も、嚥下障害の重症度と独立して関連した。一方で、AUC値は最大頭部挙上反復回数、最大頭部挙上維持時間のいずれも0.6台であり、誤嚥を検出する予測性能は十分でなかった。最大頭部挙上反復回数の評価は、嚥下障害が疑われる患者を評価する際の重要な評価項目になる可能性がある。
高齢者の立位バランス能力向上に効果的な微弱電気刺激法の開発
研究代表者関西医科大学リハビリテーション学部 助教 山縣 桃子
共同研究者
神戸大学大学院 人間発達環境学研究科 木村 哲也
立命館大学 理工学部 岡田 志麻
大阪大学大学院 基礎工学研究科 清野 健
関西医科大学くずは病院 横山 広樹
■要旨
ピンクノイズ(1/f)特性を有する微弱電気ノイズ刺激を外部から印加することで、体性感覚の機能向上・姿勢制御能力の向上が期待できる。本研究では、この特殊な閾値以下の微弱電気ノイズ刺激が腰部脊柱管狭窄症患者の立位姿勢制御に与える影響を調査した。腰部脊柱管狭窄症と診断された患者16名(75±10歳)が40秒間の静止立位を実施した。ピンクノイズ刺激を印加する条件と印加しない条件を設定して立位姿勢を評価・比較した結果、ピンクノイズ刺激を印加することによって立位中の体幹前後傾変動が減少し、足圧中心や身体重心の動揺が減少することが明らかになった。さらにピンクノイズ刺激によって姿勢動揺が減少した患者においては、拡散プロットから評価されるフィードバック機構が改善していることも明らかになった。
社会的側面に焦点を当てた機械学習による退院後転倒予測モデルの構築:単施設前向きコホート研究
研究代表者大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻 博士後期課程 竹下 悠子
共同研究者
大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻 博士前期課程 大西 真愛
大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻 博士後期課程 勝久 美月
大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻 博士後期課程 齊前 裕一郎
大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻 博士前期課程 笠松 弥咲
大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻 助教 糀屋 絵理子
大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻 教授 竹屋 泰
■要旨
本研究では、高齢入院患者の社会的側面に焦点を当てた情報を基に、機械学習を用いて退院後早期の転倒予測モデルを構築することを目的に前向きコホート研究を実施した。大阪大学医学部附属病院老年・高血圧内科に入院した65歳以上の患者を対象に、診療記録からの情報収集に加え、入院中に社会的側面に関する聞き取り調査を実施し、退院後の転倒の有無については電話調査を行った。モデルの構築には5つのアルゴリズムを使用し、性能評価には受信者操作特性曲線下面積(AUROC)と感度を用いた。解析対象者は79名で、転倒発生は13名(16.5%)であった。5つのアルゴリズムの中で、Multilayer Perceptron Classificationが最も高いAUROC(0.86)と感度(0.47)を達成し、性別、社会貢献の可能性、地域活動参加度、近所づきあい、自己健康感の5つの項目が重要な特徴量として抽出された。モデルは高い予測性能を示したが、実際の転倒を検出する性能は不十分であり、臨床応用においてはさらなる改善が必要である。
ウェアラブルデバイスによる運動量モニタリング管理を利用した、
高齢者の術後至適リハビリテーション内容の探索的検討
研究代表者市立吹田市民病院 外科医長 林 覚史
共同研究者
市立吹田市民病院 外科 副院長 戎井 力
■要旨
【背景と目的】外科手術患者の術後リハビリは廃用予防に有用であるが、リハビリの効果を客観的に計測した報告はまだない。われわれは、ウェアラブルデバイスを用いた周術期の離床データを収集し、リハビリの評価と運動量モニタリングの有用性を検討した。【対象と方法】当科で膵頭十二指腸切除または食道癌手術を受ける患者のうち、研究参加の同意を得られた10例を対象とした。術前の日常歩数、術後の離床歩数、リハビリ中のMETs量を計測し、患者の大腰筋面積の変化を検討した。【結果】術後離床歩数は、徐々に増加し術後1週間で500歩/day程度であった。歩行の主動筋である大腰筋面積は、術後に平均12%減少した。術後の日常歩数は37.8%減少し、大腰筋面積減少と有意な相関を認めた。術後3ヶ月で歩行が減少した群では、術後リハビリ時間内のMETs合計量が低く、1分当たりのMETs数が低い傾向を認めた。【結語】本研究では、術後日常歩数の低下と大腰筋面積の低下に相関を認め、術後リハビリの運動強度が影響している可能性が示唆された。
(2)令和3年度(2021年度)1年助成【1年延期】
関節軟骨細胞外基質COMPを用いた変形性膝関節症に対する
治療モニタリング法の開発
研究代表者大阪公立大学大学院医学研究科 整形外科 特任教授 橋本 祐介
共同研究者
大阪公立大学大学院医学研究科 整形外科 病院講師 西野 壱哉
済生会中津病院 整形外科 木下 拓也
大阪市立大学大学院医学研究科 整形外科 大学院生 飯田 健
■要旨
現在国民病ともいわれる変形性関節症に対しての保存療法をモニタリングする方法を血清cartilage oligomeric matrix protein(COMP)値と3DMRIを用いて検討した。
大阪公立大学整形外科外来の受診された変形性膝関節症(膝OA)患者の内、本研究に同意を得た7名を対象とした。すべてlow impact sportsの症例であった。研究開始時に臨床評価、MRI撮像と末梢血採血を行い、血清COMP値を計測した。またfit bitを常時装着するよう指示した。研究中は通院リハビリテーションを行った。研究開始後3ヶ月に再度臨床評価、MRI撮像、採血を行い、日常生活活動程度と軟骨体積、血清COMP値の相関を検討したところ、以下の結果を得た。
1) 血清COMP値変化量は軟骨体積変化量と負の相関傾向がみられた。
2) 血清COMP値変化量はその他の日常生活活動指標、臨床評価、筋力とは相関が見られなかった。
3) 自覚的膝臨床評価の変化量は2ステップテスト変化と正の相関、ロコモ25変化と負の相関がみられた。
以上の結果から、血清COMP値変化量は軟骨摩耗量を反映しており、軟骨摩耗変化を鋭敏に検出できることが分かった。一方、血清COMPと臨床評価が相関せず、壮年期のハイキング、サイクリングレベルのlow impact sports症例であれば、1日10km程度の歩行には軟骨変性とは無関係であり、軟骨変性の増悪を気にせず推奨できる可能性が示唆された。
(3)令和2年度(2020年度)1年助成【2年延期】
感覚評価装置を用いた手掌の皮膚感覚と転倒の関連の検討
研究代表者神戸大学保健学研究科 助教 菅 彩香
共同研究者
大阪大学医学系研究科保健学専攻 永安 真弓
大阪大学医学系研究科保健学専攻 安藤 菜摘子
■要旨
序:皮膚感覚は中枢神経系を介したバランスの制御に関わる事から、皮膚感覚の評価は転倒予防の観点から重要である。本研究では、高齢者の手掌の皮膚感覚と転倒の関連を検討することとした。
手法:シルバー人材センターに登録している65歳以上の者を対象に、皮膚感覚の測定、重心動揺検査、過去1年間の転倒経験、BMI、腹囲、血圧、下腿周囲径、握力、5回椅子立ち上がりテスト、年齢、性別、既往歴、内服薬を調査した。皮膚感覚閾値と過去1年間との転倒経験の関係は多変量ロジスティック回帰分析を、足圧中心の総軌跡長との関係は重回帰分析を用いて検討した。
結果・考察:手掌の皮膚感覚閾値は過去1年間の転倒経験に影響を与えていなかったが(多変量調整オッズ比:1.0[0.9-1.1])、足圧中心の総軌跡長に影響を与えていた(β=0.30,p=0.018)。手掌の皮膚感覚閾値の計測は、比較的健康な65歳以上の者の転倒やバランスのリスク評価に活用出来る可能性が示唆された。
我が国の脳卒中合併症の実態に関する調査研究:
実践的かつ包括的なQOL評価法確率のためのFADEPスコアの提唱
研究代表者
国立循環器病研究センター 脳神経内科 客員研究員 鷲田 和夫
(現 医療法人斐庵会 鷲田病院 脳神経内科)
共同研究者
国立循環器病研究センター 脳神経内科 田中 智貴
佐賀大学 脳神経内科 池田 宗平
姫路獨協大学 医療保健学部 臨床工学科 北島 えりか
■要旨
脳卒中合併症に関する実態調査は少なく、本邦での診療実態と問題点について検討した。脳血管障害治療症例数上位500施設を対象に脳卒中合併症についてのアンケート調査を実施し251施設から回答を得た。認知症、嚥下障害、意欲低下の順に多いと考えられており、診療科別の検討では内科で認知症、外科で意欲低下、膀胱直腸障害の割合が多かった。治療に困難を感じているのは嚥下障害が最多であった。エビデンスが不十分と考えられているのは認知症が最多で、嚥下障害、てんかんと続き、脳卒中治療症例数上位の施設でてんかん、下位の施設で嚥下障害の割合が多かった。認知症を呈する患者の居住形態は独居が多かった。脳卒中生存者の予後改善のため脳卒中合併症を適切に評価する指標が必要と考えられる。そのため、QOLを低下させる脳卒中合併症である転倒(Fall)、アパシー(Apathy)、嚥下障害(Dysphagia)、てんかん(Epilepsy)、認知症(Psychological problem)の実践的かつ包括的な評価法であるFADEPスコアを提唱する。
(4)令和3年度(2021年度)2年助成
女性における膝関節構成体の加齢変化開始時期の解明
研究代表者大阪河﨑リハビリテーション大学 助教 佐伯 純弥
■要旨
本研究は膝関節軟骨厚および半月板の逸脱(medial meniscal extrusion; MME)の加齢変化を検討し、それぞれの加齢変化が始まる年代を明らかにすることを目的とした。22歳〜69歳の健常女性95名(平均年齢50.3±11.4歳、身長157.8±4.85cm、体重54.1±8.78kg)を対象とし、被験者を20・30歳代群(22〜39歳)、40歳代群(40〜49歳)、50歳代群(50〜59歳)、60歳代群(60〜69歳)の4群に分類した。超音波撮像装置を用いて、対象の膝関節軟骨厚およびMMEを測定した。軟骨厚およびMMEについて、年齢との相関を検討するために、Spearmanの順位相関係数を算出した。また、各年代間の比較のために、Kruskal-Wallis検定を実施した。さらに、測定肢位間でMMEの大きさを比較するために、Wilcoxonの符号付き順位検定を行った。有意水準は5%とした。軟骨厚について、年齢との相関関係は認められなかった。MMEについて、年齢と有意な正の相関が認められた。Kruskal-Wallis検定の結果、軟骨厚について、年代による差は認められなかった。仰臥位におけるMMEは20・30歳代群と比較して50歳代群、60歳代群で有意に高値であった。立位におけるMMEは、20・30歳代群と比較して60歳代群で有意に高値であった。20・30歳代群および60歳代群で立位におけるMMEは仰臥位よりも有意に高値であった。膝関節軟骨の加齢変化が認められなかったことに対し、仰臥位におけるMMEは20・30歳代と比較して50歳代および60歳代で高値を示し、40歳代におけるMMEはどの年代とも有意差が認められなかった。これらの結果から、半月板は軟骨よりも早期に加齢変化が生じることが示された。半月板の変性は40歳代から生じ、50歳代以降顕著となることが示唆された。
中高齢者の「いつでも速歩トレーニング」が体力・認知機能に及ぼす影響
研究代表者明治国際医療大学 保健医療学部 柔道整復学講座 教授 齊藤 昌久
共同研究者
常葉大学 健康プロデュース学部 柔道整復学科 鳴瀨 善久
明治国際医療大学 保健医療学部 基礎教養講座 村川 増代
明治東洋医学院専門学校 専任教員 吉田 勳生
大阪医科薬科大学 医学部 総合医学講座 佐浦 隆一
大阪医科薬科大学 医学部 予防・社会医学講座 玉置 淳子
大阪医科薬科大学 医学部 総合医学講座 金沢 徹文
■要旨
本研究の目的は、地域中高齢者を対象に、インターバル速歩トレーニング(IWT)といつでも速歩トレーニング(a-FWT)が推定最高酸素摂取量(EVo2peak)、10m歩行速度、MMSE-J、血清PGC-1α濃度に及ぼす影響を比較検討することであった。さらに、a-FWTの効果を介入前後の比較から検証することであった。
本研究の結果、EVo2peak、握力、10m歩行速度と10mの歩数(通常・最速歩行)、および血清PGC-1α濃度は、IWT、a-FWTの前後に有意な差が見られなかった。MMSE-Jは、介入前後で両プログラムとも正常範囲内で変化が見られなかった。また、IWT、a-FWTにおける測定項目の変化量にはプログラム間で有意差が見られなかった。したがって、a-FWTはIWTと同様の効果のあることが示唆された。
D.福祉現場の創意工夫関係
(1)令和3年度(2021年度)2年助成
軽度認知障害または認知症の方と家族に対する
レクリエーションアプローチによる心理社会的支援プログラム開発
研究代表者
立命館大学スポーツ健康科学部 教授
国立長寿医療研究センターもの忘れセンター 外来研究員
京都大学大学院農学研究科 生物資源経済学専攻 研究員
清家 理
共同研究者
国立長寿医療研究センター 理事長 荒井 秀典
国立長寿医療研究センター 研究所長 櫻井 孝
国立長寿医療研究センターもの忘れセンター センター長 武田 章敬
国立長寿医療研究センターもの忘れセンター 副看護師長 竹内 さやか
国立長寿医療研究センターもの忘れセンター 副看護師長 萩原 淳子
立命館大学大学院スポーツ健康科学研究科 博士後期課程 川瀬 広大
■抄録
【背景・目的】世界中で認知症を有する人々の数は増加の一途をたどっており、認知症の人(以下、本人)及び家族介護者(以下、家族)の生活の質(QOL)を維持するための介入が急務である。特に、認知症カフェのような政策に見られるように、本人と家族を同時に支援する必要性が高まっているが、その効果を裏付ける明確なエビデンスはまだ不十分である。本研究は、本人とその家族を対象に、グループ形式で提供されるマルチコンポーネント型の心理社会的支援プログラムのフィージビリティを検証することを目的としている。本介入は、本人とその家族が共に参加し、教育的要素を最小限に抑えつつ、レクリエーション活動を通じて心理的支援を行うものである。特に、非専門職によるセッションのナビゲートと、漫才や音楽などの娯楽要素を取り入れることで、参加へのハードルを下げ、主体的に楽しめる環境を整えている。
【方法】研究デザインは、単群介入試験として12週間の介入期間が設定されている。選択基準に基づき、本人は軽度認知障害または軽度から中等度の認知症(MMSE15点以上)と臨床診断されている65歳以上90歳以下の方で、在宅生活を継続中であり、本研究への参加に同意した者を対象とした。家族は、同居の有無を問わず、在宅生活を送る軽度認知障害または軽度から中等度の認知症を有する人の家族介護者(20歳以上90歳以下)で、本人と共にプログラムに毎回参加可能な者を対象とした。プログラムは、「本人と家族の同時参加型」「グループ型」「ニーズに基づいたマルチコンポーネント型(回想法、ストレスマネジメント理論、レクリエーションアプローチ:笑いの誘発をベースにした複合型プログラム)」「非専門職による介入」という4点の特徴を有しており、音楽セッション3セッション、漫才セッション3セッション、合計6セッション(1クール)で構成され、3か月で完結する心理社会的支援プログラムである。1クールあたりの人数は10名(5ペア)とされている。
【結果と考察】介入完遂者は、本人10名、家族10名であった。本人の認知症罹患種別では、アルツハイマー型認知症が最も多く、診断経過年数は2.5年から3年程度、要介護認定の結果は要支援2と要介護1で70%以上を占めていた。介護年数は約4年であった。プログラムのフィージビリティの結果として、脱落率は25%未満であり、参加満足度は全参加者の平均スコアが50点以上の高評価であった。質的評価からも、参加者はプログラムの改善点に関して軽微な修正のみが必要であり、大幅な改善の必要は認められなかった。これらの結果から、プログラムは実施可能であり、その有効性をさらに詳しく検証するためのランダム化比較試験(RCT)へと進めることが適切であると判断された。予備的な測定として、本人に対しては、認知機能及び日常生活機能の改善傾向が見られた(MMSE:22.4±4.3から24.8±3.3(⊿:2.4[-7.8,3.1])、Barthel Indexスコア:91.4±8.5から94.2±6.1(⊿:2.9[-3.6,9.3]))。家族に対しては、主観的介護負担感、抑うつ状態を評価した結果、J-ZBIスコアは24.5±7.5から28.1±7.9(⊿:3.6[-2.0,9.2])で改善が見られなかったが、CES-Dスコアは15.5±8.6から15.0±10.3(⊿:-0.5[-11.0,9.8])の改善傾向が見られた。
以上の結果により、新たに試作された本人と家族ペアに対する集団型マルチコンポーネントプログラムのフィージビリティが確認され、かつ予備的データにおいて、両者に対する一定の効果を有する可能性が確認された。この結果をもって、無作為割付試験によるプログラムの効果検証を進めていく予定である。