2018年度「研究助成報告書」
Ⅰ.一般部門
B.健康の維持・増進関係
(1)2016年度1年助成
高齢COPD未診断者における呼吸困難評価を目的として、
若年健常者における吸気抵抗負荷誘発性呼吸困難の測定方法の検討
研究代表者姫路獨協大学医療保健学部理学療法学科 助教 永禮 敏江
共同研究者姫路獨協大学医療保健学部理学療法学科 専任講師 金﨑 雅史
■要旨
新規に診断された慢性閉塞性肺疾患(COPD)の約半数は自覚症状が乏しいことが報告されている。しかし、COPD早期発見のためのスクリーニング方法の多くは自覚症状に重きを置いている。本調査では、COPD早期発見のためのツールとして、吸気抵抗負荷による直接的呼吸困難評価法を確立することである。
健康大学生19名を対象とした。また、呼吸器疾患の既往、4週間以内に呼吸器感染症を示唆する症状や季節性アレルギーの者は被験者から除外した。すべての被験者に吸気抵抗負荷検査を実施した。
修正ボルグスコアによる呼吸困難において、吸気抵抗負荷が5cmH2O・L/sの時では0.18±0.10、10cmH2O・L/sの時では0.94±0.22、15cmH2O・L/sでは1.37±0.24、20cmH2O・L/sでは2.03±0.36、25cmH2O・L/sでは2.76±0.45、30cmH2O・L/sでは3.55±0.48、35cmH2O・L/sでは4.24±0.57であった。一方、吸気抵抗負荷量に対するVASにおいて、5cmH2O・L/sの時では4.21±1.64㎜、10cmH2O・L/sの時では8.47±2.00㎜、15cmH2O・L/sでは13.05±9.84㎜、20cmH2O・L/sでは18.94±3.13、25cmH2O・L/sでは26.47±4.98、30cmH2O・L/sでは30.74±5.56、35cmH2O・L/sでは36.21±6.94であった。加えて、IM1.0(14.74 cmH2O・L/s)とIV10(16.32cmH2O・L/s)との間には統計学的有意差は認められなかった。
今後、これらの知見を基に、地域在住高齢者を対象として、新規COPD患者と健常喫煙者における吸気抵抗負荷検査を実施し、検討する予定である。
地域在住高齢者における踵部および体幹加速度データ由来の
歩行評価指標をベースにした歩行スコアの開発
−「歩行検診」実施に向けた基礎的データの集積−
研究代表者
神戸大学大学院保健学研究科 地域保健学領域 博士後期課程
神戸市民病院機構 神戸市立医療センター 西市民病院 リハビリテーション技術部 三栖 翔吾
共同研究者
神戸学院大学 総合リハビリテーション学部 医療リハビリテーション学科 浅井 剛
■要旨
本研究の目的は、地域在住高齢者における踵部および体幹加速度データ由来の歩行評価指標の基準値を明らかにし、その基準値を用いて作成した歩行スコアの妥当性を検討することであった。対象は体力測定会に参加した地域在住高齢者308名とし、小型3軸加速度センサを用いて通常歩行中の踵部と下部体幹の加速度測定を行った。得られたデータより、歩行速度、ケイデンス、ストライド長、ストライド時間のばらつき、体幹運動の規則性の指標と円滑性の指標を算出した。それぞれにおいて性別ごとの四分位点を基準値として明示した。また、基準値をもとに得点化を行い、その合計点を歩行スコアとした。歩行スコアの平均値 ± 標準偏差は14.9±6.3点であり、年齢、身体機能の低下、過去1年間の転倒経験と有意な関連性がみられた(いずれも p < 0.05)。本研究によって作成した歩行スコアは、加齢に伴う機能低下を反映しており地域在住高齢者を対象とした歩行評価指標として妥当であった。また「歩行検診」のために有用な評価方法になりうることが明らかになった。
長寿地域における長寿の地域要因と支援要因の分析
〜京丹後市を事例として〜
研究代表者立命館大学産業社会学部 非常勤講師 冨澤 公子
■要旨
本研究では長寿地域における長寿の地域要因と支援要因を明らかにすることを目的に、京丹後市を事例として、在宅百寿者の家族へのインタビュー調査と集落の区長を対象に集落環境のアンケート調査を実施した。インタビュー調査は語りの文脈に密着してコア概念を導き出すM-GTA法で行った。その結果、京丹後市百寿者の自宅暮らしを実現しているコア概念として、「本人の努力とそれを支える家族の絆」が導かれた。アンケート調査からは、集落の自然環境や紐帯、行事、祭りや冠婚葬祭への参加の習慣などが高い状況にあり、長寿の地域要因では自然環境、新鮮な食べ物、なじみの人が上位にあげられた。旧町を農家率で2グループに分けてt検定した結果では、集落の紐帯と社会関係資本で有意差が見られた。京丹後市の集落には自治力、教育力、経済力が形成されている。それらが集落内の強い紐帯と家族の絆となって長寿地域を形成していることが明らかにされた。
緑内障が高齢者の睡眠・認知機能・うつ症状へ与える影響
研究代表者奈良県立医科大学眼科学講座 学内講師 吉川 匡宣
共同研究者
奈良県立医科大学 眼科学講座 緒方 奈保子
奈良県立医科大学 眼科学講座 岡本 全弘
奈良県立医科大学 眼科学講座 宮田 季美恵
■要旨
【背景】
緑内障では外部からの光を受容する光感受性網膜神経節細胞死が生じることにより、うつ病・認知機能障害・睡眠障害などの生体リズム関連疾患が生じる可能性が示唆されている。過去の研究で実際にそれらの疾患と関係することが小規模ながら報告されているが、サンプルサイズが小さいため大規模な研究が必要である。
【方法】
研究デザインは横断研究である。緑内障群79名(平均年齢69.9歳)は奈良県立医科大学に通院中の患者で、健常群は平城京コホートスタディ参加者のうち緑内障が除外された713名(平均年齢70.9歳)が対象である。眼圧日内変動検査はアイケアHOMEを使用して2日間測定した。うつ症状はGeriatric Depression Scale、認知機能はMini Mental State Examination、自覚的睡眠障害はPittsburg Sleep Questionnaire Indexを使用して評価した。
【結果】
眼圧日内変動幅は右眼7.7mmHg、左眼7.5mmHgであった。うつ症状を呈する対象者は健常群(13.8%)と比較して緑内障群(25.6%)で有意に多かった(p=0.002)。交絡因子を調整した多変量ロジスティック回帰分析で、緑内障群の方が健常群よりも有意にオッズ比が高かった (オッズ比2.31, 95%信頼区間1.33-3.97)。自覚的睡眠の質および認知機能障害には有意な差を認めなかった。
【結論】
本研究の緑内障群では眼圧日内変動幅が大きく、またうつ症状と有意な関連を認めた。
高齢者の骨格筋評価における筋厚・筋輝度および
骨格筋細胞量の有用性検証
研究代表者
滋賀医科大学医学部附属病院 リハビリテーション部 理学療法士 谷口 匡史
共同研究者
医薬基盤・健康・栄養研究所 栄養代謝研究部 山田 陽介
京都大学大学院 医学研究科 人間健康科学系専攻 市橋 則明
■要旨
本研究の目的は、高齢者の筋力発揮と筋厚・筋輝度および骨格筋細胞量について調査し、加齢に伴う骨格筋の量的・質的変化の違いを明らかにすることである。健常若年女性20名(平均21.6±1.8歳)および地域在住高齢女性349名(平均74.3±5.5歳)を対象とした。超音波画像診断装置によるBモードを用いて、大腿四頭筋の筋厚・筋輝度を計測した。生体電気インピーダンス法を用いて、大腿部における骨格筋細胞量の指標として細胞外液比(ECW/ICW比)を算出した。また、最大等尺性膝伸展筋力を測定した。加齢変化を明らかにするため、若年群および60・70・80歳代における各測定項目の比較を行った。その結果、膝伸展筋力や筋厚よりも筋輝度・ECW/ICW比は、加齢による影響を受けやすいことが明らかとなった。また、同じ筋の質的指標とされる筋輝度とECW/ICW比は、ECW/ICW比よりも筋輝度が早期から加齢変性が生じることを示唆した。
高齢者の転倒リスクを評価するための新しい脳波バイオマーカーの開発
研究代表者京都橘大学健康科学部 助教 中野 英樹
共同研究者
京都橘大学健康科学部 教授 村田 伸
京都橘大学健康科学部 准教授 兒玉 隆之
京都橘大学健康科学部 講師 安彦 鉄平
■要旨
超高齢者を迎えた日本において、転倒リスクが高い高齢者を早期に発見する評価法の開発は必要不可欠である。本研究の目的は、脳波バイオマーカーを基盤とした新しい転倒リスクの評価法を開発し(実験1)、それを用いて虚弱高齢者の脳・運動・認知機能を包括的に評価すること(実験2)、そして下肢運動トレーニングが虚弱高齢者の脳・運動・認知機能に及ぼす効果を明らかにすること(実験3)である。本研究により、幅が異なる歩行路を用いたイメージ歩行と実際歩行の時間的誤差は脳機能に着目した高齢者の転倒リスクの評価法として有用であること(実験1)、転倒リスクが高い虚弱高齢者は筋力や歩行能力、バランス能力の低下に加え、自身の歩行能力を過大評価すること(実験2)、下肢運動トレーニングは虚弱高齢者におけるイメージ歩行と実際歩行の時間的誤差を改善させること(実験3)が明らかにされた。
作業科学を基盤とした個人にとって意味ある作業と健康との関連性
研究代表者森ノ宮医療大学保健医療学部 横井 賀津志
共同研究者
和歌山県立医科大学 保健看護学部 宮井 信行
関西福祉科学大学 保健医療学部 倉澤 茂樹
関西福祉科学大学 保健医療学部 藤井 有里
関西福祉科学大学 保健医療学部 酒井 ひとみ
和歌山県立医科大学 医学部 宮下 和久
■要旨
【目的】
生産的で意味ある作業を育むことは、自立性を最大限に高め、生活機能を拡大する。そして、人は作業を通して健やかな老いを実現できる。本研究の目的は、わかやまヘルスプロモーション研究に参加した動脈硬化健診者のデータを用い、意味のある作業への結びつきと健康との関連性を横断的に検討することである。
【方法】
わかやまヘルスプロモーション研究に参加し、A町動脈硬化健診を受けた675名(男性283名、女性392名、平均年齢66.3±10.5歳)を対象とし、作業に関する自記式アンケートおよび動脈硬化に関する検査(循環器機能検査、血液検査、身体機能検査)、生活調査に関するアンケートを実施した。作業に関するアンケートは、意味ある作業名の列挙、最重要となる作業名、作業の遂行度(主観的経験として「とても上手くできると思う」10点から「全くできないと思う」1点)、作業の満足度(主観的経験として「とても満足している」10点から「全く満足していない」1点)、作業の頻度、作業の領域、作業の継続期間であった。なお、作業とは、「自分に必要で、自分らしさを感じるような活動」と定義した。
【結果】
665名(98.5%)が何らかの作業と結びついていた。作業はセルフケアの領域が多く、女性は男性より作業の数が多かった。作業遂行度の平均は7.10±2.0点、作業満足度の平均は7.20±2.0点であった。作業の頻度や継続は、性差を認めなかった。健康関連QOLが高いことは作業遂行度得点の高さと有意な関連があり、調整済オッズ比は1.26(95%Cl:1.03-1.53)であった。利き手握力が正常範囲であることは、作業遂行度得点の高さと有意に関連しており、調整済オッズ比が1.33(95%Cl:1.10-1.61)であった。日々の暮らしの中で物忘れを感じないことは、作業の頻度が毎日もしくは週単位であることとは有意な関連を認め、調整済オッズ比は1.40(95%Cl:1.00-1.96)であった。臨床検査値においては、作業の遂行度と満足度に有意に関連する項目はなかった。
【結論】
殆どの参加者は作業との結びつきがあり、人は作業的存在であるといえる。作業遂行度の高さは、健康関連QOLと握力との関連性が高いことが示唆された。健康寿命延伸のためには、個人の作業遂行に焦点をあてた介入の必要性がある。
(1)2015年度2年助成
災害時の避難所生活における摂食嚥下・栄養支援に関する調査研究
研究代表者関西労災病院 医師 野﨑 園子
共同研究者
兵庫医療大学 薬剤師 桂木 聡子
ナチュラルスマイル西宮北口歯科 看護師 竹市 美加
■要旨
<目的>
災害における食と栄養の支援という視点から、医療職・介護職へのアンケートにより災害時の実態を把握した。
<方法>
被災地支援・被災経験の有無にかかわらず、平素食の支援に関わっている医療職・介護職に、無記名自由記載による回答を依頼した。
<結果>
回答者364名のうち、経験者は88名であり、特に困ったことは食品・水・口腔ケアであった。具体的内容として1)支援の食品:咀嚼困難、冷たい、基礎疾患食事療法や嚥下障害への対応の不安 2)飲料水:給水制限、とろみ剤・ゼリー対応、食具の不適合 3)口腔ケア:優先度・認識度の低さ、水不足や不衛生、ケア環境不足 4)常用薬:不携帯、服薬の判断困難、支援薬の剤形不適合への対応不安 5)義歯の管理:不携帯、ケア環境不足 6)口腔乾燥:臥床による口腔乾燥、水摂取不足、ケア環境不足など。防災グッズは、平素の食器・とろみ剤・簡単な調理用具・口腔ケアグッズなどの提案があった。
<考察>
指摘された問題点の共有と対応が必要であるが、発災直後にはこれらの問題に対応できない場合もある。被支援者側の平素の備え、支援者側の情報共有、平素からの継続的な啓蒙活動が望まれる。
高齢者の栄養摂取状況と健康の関連
写真栄養調査法を用いた前向きコホート研究
研究代表者奈良県立医科大学 疫学・予防医学講座 教授 佐伯 圭吾
共同研究者奈良県立医科大学 疫学・予防医学講座 准教授 大林 賢史
■要旨
目的:
本研究の目的は、写真法による食事調査結果と秤量法による結果の比較から、写真法の妥当性を検証し、写真法を用いて推定した栄養摂取量と疾病の横断的関連を調べることである。
方法:
一般高齢者が摂取頻度の高い144品目を自由調理した際に、秤量法と写真法の両方で栄養素を推定し、2つの方法による推定値の相関から、写真法の妥当性を検討した。60歳以上の一般高齢者245名が、2日間撮影した食事写真に基づいて栄養摂取量を推定し、自由行動下血圧、糖尿病、睡眠の質、うつ症状、認知機能との横断的関連を検討した。
結果:
写真法で推定した総エネルギー量は秤量法の結果と強い相関を示した(スピアマン相関係数, 0.93)。三大栄養素や電解質においても同様に強い相関を認めた(蛋白質:スピアマン相関係数, 0.90; 脂質:0.92; 炭水化物:0.94; ナトリウム:0.78; カリウム:0.88)。実生活下の食事写真から推定したカリウム摂取量は、自由行動下血圧測定による24時間平均収縮期血圧と有意な負の関連を示し、その関連は年齢、性別、BMI、飲酒、喫煙、糖尿病、降圧薬服用、ナトリウム摂取量といった交絡要因と独立していた(P = 0.001)。
結論:
秤量法との比較から、写真法による食事調査の妥当性が示され、写真法を大規模コホート研究へ応用が可能と考えられる。
高齢者の嚥下機能回復リハビリテーション効果と
頸部聴診音の比較調査
研究代表者滋賀県立大学工学部電子システム工学科 准教授 宮城 茂幸
共同研究者
滋賀県立大学人間文化学部 小澤 恵子
草津総合病院 森谷 季吉
滋賀県立大学工学部 坂本 眞一
草津総合病院 NST嚥下チーム
■要旨
嚥下評価を行うための手法として頸部聴診法が知られている。特殊な機器を使用せず、ベッドサイドでも利用可能であるが、嚥下前後の聴診音から嚥下の状態を判定するためにはかなりの習熟が必要である。今後の高齢化社会の進展に伴い、在宅医療やグループホームにおいて介護従事者が容易に使用できる頸部聴診法の確立が望まれる。そこで咽喉マイクを用いて嚥下時の聴診音を取得するシステムを構築し、実際に院内での嚥下内視鏡検査(Video Endoscopic swallowing study、以下VE)時に嚥下音を収集した。本報告では嚥下訓練による機能改善が、嚥下音の特徴にどのような変化を与えるかについて明らかにするために、嚥下機能評価スコアに変化があった被験者の嚥下音を良好群(A群)と悪化群(B群)に分類し、種々の特徴量に差があるかどうかを検定した。その結果嚥下音のスペクトルに対する周波数分散に有意な差がみられ、嚥下機能の悪化がスペクトルのばらつきを大きくすることが分かった。このことからスペクトルのばらつきにより嚥下機能の変化を定量的に評価できる可能性を示すことができた。
高齢者における口腔内残留薬剤予防を目指した基礎的調査
研究代表者兵庫医科大学歯科口腔外科学講座 講師 長谷川 陽子
共同研究者
兵庫医科大学歯科口腔外科学講座 堀井 宣秀
兵庫医科大学歯科口腔外科学講座 櫻本 亜弓
兵庫医科大学歯科口腔外科学講座 岸本 裕充
兵庫医科大学内科学総合診療科 新村 健
■要旨
臨床現場において高齢者における口腔内残留薬剤にしばしば遭遇するが、未だ口腔関連因子と内服薬の口腔残留との関連について定量的に調査した報告は見当たらない。本研究は、自立した高齢者と要介護高齢者を対象に、口腔衛生ならびに顎口腔機能と口腔内残留薬剤との関連を調査し、口腔内残留薬剤に影響する歯科的因子を明らかにすることである。
調査対象者は、自立した健常高齢者674名(男性202名、女性472名、年齢72.7±5.9歳)と、要介護高齢者41名(男性9名、女性32名、平均年齢85.4±7.0歳)とした。調査項目は、1) 全身的状況、2) 口腔内状況、3) 口腔機能とし、以下の結果を得た。
1) 口腔内残留薬剤は要介護高齢者にのみ認め、内服薬の剤型が粉薬である場合は残留しやすかった。2)口腔内残留薬剤あり群は口腔内残留薬剤無し群と比較して、口腔機能、特に嚥下機能が有意に低下していた。3)口腔内薬剤残留には、内服薬の形態と嚥下機能低下が有意に影響していた。
以上の結果から、口腔内残留薬剤を防ぐためには処方薬への工夫や口腔機能改善のための介入が効果的であることが示唆された。
嗅覚刺激により初期アルツハイマー病患者の
認知予備力を高めることができるか
研究代表者藍野大学 医療保健学部 臨床工学科 教授 外池 光雄
共同研究者
藍野大学 医療保健学部 臨床工学科 講師 林 拓世
大阪大学 医学部 精神医学教室 講師 岩瀬 真生
藍野大学 医療保健学部 臨床工学科 教授 学部長 黒澤 和平
■要旨
本研究の目的は、超高齢化社会を迎えた我が国において、健康の維持・増進が課題となっている中で「認知症」の疾患、特に初期アルツハイマー病(AD)患者の初期症状に嗅覚異常が見られることに注目し、嗅覚刺激によって認知予備力が如何に高められるかを明らかにすることである。このため、人に対する匂い刺激による脳機能反応を脳波・脳磁図計測によって調べ、どのような匂いによって初期アルツハイマー病患者の認知機能が如何に影響されるか、その脳内パラメータの特徴を抽出するものである。
C.分野横断的課題関係
(1)2015年度2年助成
コミュニティ・カレッジと大学が協同する「人間と芸術」の研究活動
研究代表者大阪大学医学系研究科 佐藤 宏道
共同研究者
大阪大学 医学系研究科 内藤 智之
京都造形芸術大学 福 のり子
大阪大学 生命機能研究科 原 泉
関西福祉大学 社会福祉研究科 森川 貴嗣
■要旨
高齢者のためのコミュニティ・スクールを拠点として、将来の豊かな社会作りの担い手となる大学院生との協同により「芦屋美術会」という美術研究会を組織し、芸術、特に視覚芸術の鑑賞とそれを介するコミュニケーションの実践、そしてその基礎にある脳・心と芸術の関係についての学びの実践を行った。これを通じて「人間と芸術」に関する人文科学と生命科学を統合的に学び、文化的で心豊かな生活のためのネットワーク作りと人材育成を実践し、その成果を社会に還元する。これにより、地域社会の実情に応じた文化活動のシステムを構築するための市民活動モデルを提案することを目的とした。
会員は兵庫県芦屋市が主催する60才以上の市民を対象とした「芦屋川カレッジ」の学友会のメンバーで、特に美術に関する強い修学意識を持つ者約20名だった。活動は芦屋市民センターにおける毎月一度の定例会(講義と、会員が設定したテーマに関するグループワーク)と、およそ半年に一度のグループ発表、そして不定期の特別企画(講演会、美術館訪問、バスツアー)を行った。
会員は、きわめて熱心にグループテーマについて資料に基づいた調査・考察を行い、意見交換をしながら、高い研究成果をあげた。これは、個人レベルでは出来ない美術研究であり、会員の満足度も非常に高い。活動の様子は芦屋川カレッジ学友会のブログで詳細に報告され、学友会のサークル活動の中でも、最もレベルの高いものとして認識されている。
D.福祉現場の創意工夫関係
(1)2016年度1年助成
高齢者施設における立位補助機の導入が
介護労働者の作業負担に与える影響
研究代表者
京都女子大学 家政学部 生活福祉学科・助教 冨田川 智志
■要旨
日本では、超高齢化や介護ニーズの多様化・高度化などに伴って介護労働が重度化しており、介護労働者の作業負担が深刻化している。厚生労働省は「職場における腰痛予防対策指針」において事業者に対し、立位保持できる場合はスタンディングマシーン(以下、StdM)等を使用するよう指導している。しかし、StdMの導入率は低値であり、研究も進んでいない。そこで本研究では、高齢者施設にStdMを導入し、StdMの導入による介護労働者の作業負担への影響を検証した。
その結果、StdMの導入によって身体的負担感で軽減が認められた一方、精神的負担感は軽減が認められず、StdMの積極的な使用に繋がっていなかった。要因として、StdMの操作性や所要時間、適用利用者の選定基準・判断の難しさ、リフト本体の使用環境等が影響していることが明らかとなった。今後として、導入前に労働衛生に視点をおいた腰痛予防への変革を果たす十分な指導が必要であることが示唆された。