2014年度「研究助成報告書」
Ⅰ.一般部門
A.福祉の向上関係
(1)2012年度1年助成
地域における要援護者の
「孤立化」・「孤立死」防止対策ネットワーク構築の研究
−フォーマルサポートネットワークと
インフォーマルサポートネットワークの融合の観点から−
研究代表者関西福祉科学大学 斉藤 千鶴
共同研究者
甲子園短期大学 峯本 佳世子
岩出市社会福祉協議会 湯浅 敦之
■要旨
高齢社会の進行で、高齢者等、要援護者の「孤立化」「孤立死」が課題となっている。本研究では、「孤立化」「孤立死」に陥りやすい「セルフネグレクト」(支援拒否者)への支援アプローチの手掛かりを探ることを目的に、先進的な見守り活動を展開するA市を対象に、2種の調査を実施した。1つは、地域包括支援センターとそのブランチに配置された「見守り推進員」全員を対象とした調査票による郵送調査。2つ目は、見守り活動を展開する関係者によるグループインタビュー調査を2か所実施した。調査結果からは、支援が困難な人へのアプローチとして、「気長に訪問」「嫌がられ、怒鳴られながら何度も訪問」「本人の負担にならない声掛け」「チラシをポスティング、常にあなたの事を気にかけていることをさりげなく知らせる」「何かあれば相談できる人がいる事をアピールし続ける」などがあげられた。関係者の地道な努力と、地域住民と専門機関・専門職の連携の重要性が明らかになった。
世代間交流の活性化をめざした高齢者支援事業
−子育て支援への参画を介して
研究代表者兵庫教育大学 名須川 知子
共同研究者
神戸常盤大学 上月 素子
夙川学院短期大学 井上 千晶
夙川学院短期大学 番匠 明美
関西国際大学 濱田 格子
園田学園女子大学 新道 由紀子
■要旨
祖父母世代の子育て支援について、2013年に50歳以上の50名(男性19名、女性31名)にインタビューした結果、現在の子育て中の親への関心をもち、その難しさ故に支援を思う気持ちと、自らの子育てのやり直しをしたいという気持ちもあわせもち、活動の楽しさに生きがいを感じている姿が見られた。また、きっかけがあれば実施したいという思いももち、自主的にゆるやかなかかわりとしての支援を望む声が多くあった。さらに、何か技をもって望みたいという希望もあった。そこで、まず、人と人をつなぐファシリテーターとしての役割や人材育成の仕組み、また、多世代で双方向にかかわる意味を社会全体としてもつことが必要であり、その仕組みをコーディネートできる力が求められていることが明らかとなった。
B.健康の維持・増進関係
(1)2011年度1年助成
在宅高齢COPD患者に向けた骨格筋電気刺激トレーニングの
導入に関する研究
研究代表者京都大学大学院 医学研究科 長谷川 聡
共同研究者
京都大学大学院医学研究科 市橋 則明
京都大学大学院医学研究科 室繁 郎
京都大学医学部附属病院 佐藤 晋
京都大学医学部附属病院 大島 洋平
兵庫医療大学 玉木 彰
■要旨
在宅慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者において発生する骨格筋機能障害を分析し、これに対して骨格筋電気刺激(EMS)トレーニングシステムを導入することによって生じる骨格筋機能、運動耐容能、ADLおよびQOLへの影響を明らかにすることを目的として検証を行い、以下の結果を得た。
1) 症状の安定している30名のCOPD患者を対象とし、評価を行った結果、大腿部および下腿部の著明な筋萎縮、筋力低下、運動耐容能、疾患特異性ADL、QOLの著明な低下を認めた。
2)30名のCOPD患者を対象に、6週間のトレーニング期間を設け、従来のリハビリテーションメニューを実施した群とEMSトレーニングを実施した群のトレーニング効果を比較した結果、EMSトレーニングを実施した群でのみ有意に骨格筋機能が向上した。
以上の結果から、COPD患者では疾患による肺機能の低下だけでなく、併存症として、著明な骨格筋機能の低下により運動耐容能、ADL、QOLが低下していることが明らかとなった。また、EMSトレーニングを導入することによって、これらを改善させる可能性が示唆された。
高齢者における腹部膨満と便秘の評価のための超音波画像法の調査・研究
研究代表者
大阪医科大学看護学部 松尾 淳子
共同研究者
大阪医科大学看護学部 原 明子
葛城病院 超音波室 薮中 幸一
■要旨
便秘は高齢者に高率にみられる症状で、腹痛や腸閉塞など深刻な腸疾患を発症する原因ともなる。よって、看護の現場では、早期に便秘の状態が把握できることが求められている。現在、便秘のアセスメントは、腹部所見と問診で行われているが、客観的で簡便な検査方法は確立していない。そこで、看護師が使用可能で、利便性と安全性に優れた超音波装置を用いて便秘の画像評価を行った。超音波画像による評価では、CT画像にて大腸に停滞する便が硬くなるほど、ハウストラの形状が明瞭となり、反射が強くなった。それに対して、大腸ガスはハウストラを形成せず、大腸の内部に多重反射が見られた。高齢者の腹満や便秘症の患者に対して、腹部触診や聴診などと併用し、超音波による画像評価を行うことで便秘のアセスメント技術の向上が見込まれる。
高齢者の健康課題と居住環境バリアフリー化に関する調査研究
−「ヒートショック」「熱中症」対策のための温熱環境改善−
研究代表者 京都府立大学生命環境科学研究科 松原 斎樹
共同研究者
京都府立大学生命環境科学研究科 柴田 祥江
京都府立大学生命環境科学研究科 北村 恵理奈
■要旨
我が国の高齢者人口が急激に増加している中で、高齢者が健康で安全な生活をするために住宅の安全性は重要な課題である。高齢者の住宅では、加齢による運動機能の低下に対応した運動バリアフリー化に加えて、温熱環境などの居住環境のバリアフリー化が重要である。近年、住宅内で夏期の熱中症と冬期のヒートショックの発症が高齢者の生命と健康を脅かしており、夏期、冬期の高齢者の住まいの温熱環境改善は喫緊の課題となっている。
本研究では、京都府下の高齢者が居住する住宅(11軒)を対象に、住宅内の夏期、冬期の温熱環境実態と熱中症とヒートショック対策の現状を把握することを目的として、詳細な訪問調査を行った。温熱環境測定は、居住者が居間、台所、寝室、トイレ、脱衣室の5室で温湿度を読み取り記録するとともに、自動記録を行った。また、住まい方や対策の実際についてインタビュー調査を行った。その結果、住まい手は住宅内の温熱環境をうまく調節できていない例が多く、酷暑期には熱中症、厳寒期にはヒートショックの危険域となっており、体感温度の認知が有効な対策となる可能性が示された。
失語症者の日常生活自立に向けた
Virtual Reality技術を用いた高次脳機能評価システムの開発
研究代表者西大和リハビリテーション病院 言語聴覚士 小嶌 麻木
共同研究者
京都大学大学院 医学研究科 岡橋 さやか
神戸大学大学院 保健学研究科 関 啓子
■要旨
失語症者は言語障害により日常生活に支障をきたす。言語障害のみならず、高次脳機能障害の併発により、広くADLまたIADLが困難になることがある。しかしながら失語症者自身が症状を表現することが困難であり、さらに日常生活場面の困難さを客観的に評価する指標はない。そこで我々は, 最新の言語病理学の知見とVirtual Reality(VR)技術の手法とを融合させ、治療法・評価法の客観化・体系化が強く要請されている成人の脳血管障害に伴う失語症に対する新しい評価法Virtual Shopping Test(VST)を開発し、その臨床的有用性を検討することを試みた。特に、VR技術を大幅に導入した上で、失語症者の日常場面における高次脳機能を評価する実用性のあるシステムの構築を目指した。本研究では、1)失語症者への適用の検討、2)失語症者群と健常者群とのVR課題実施の比較を目的とした。対象は失語症者20名、対照群は年齢および教育歴を合わせた健常者20名であった。失語症者のVR課題遂行の観察および、失語症群と健常群との比較を行った。失語症者はVR環境での課題を理解し、課題を行うことが可能であった。また、2群間では、ヒントの活用や所用時間において有意差を認めた。
変形性関節症予防をめざした新たなリハビリテーションアプローチの開発
研究代表者
大阪府立大学 地域保健学域総合リハビリテーション学類 理学療法学専攻 助教
大阪大学大学院 基礎工学研究科 機能創成専攻 博士後期課程
小栢 進也
共同研究者
大阪府立大学 地域保健学域 総合リハビリテーション学類 理学療法学専攻 教授
淵岡 聡
大阪大学大学院 基礎工学研究科 機能創成専攻 教授 田中 正夫
■要旨
背景:変形性膝関節症は膝内側部に生じる圧迫力(内側膝圧迫力)によって悪化する。本研究では内側膝圧迫力に関与する要素を検討し、圧迫力を減少させる歩行を検討した。
方法:(研究1)高齢者122名を対象として、立位内反角度、歩行時関節モーメントを求めた。また、筋骨格シミュレーション解析を用いて、内側膝圧迫力を求め、それぞれとの関連性を検討した。(研究2)若年者成人18名を対象として、足部を外側に向けた足部外旋歩行時の内側膝圧迫力を調べた。
結果:(研究1)内側膝圧迫力は内反角度と関連性が低く、歩行時膝内反・伸展モーメントと高い関係性を認めた。(研究2)内反モーメントは立脚初期、後期共に足部外旋歩行で減少した。しかし、内側膝圧迫力は立脚後期でのみ低下した。
結論:内側膝圧迫力は内反・伸展モーメントの両方に影響を受けることがわかった。また、足部外旋歩行は変形性膝関節症予防の歩行指導として有用であることがわかった。
栄養摂取とレジスタンス運動による筋肥大の関係性
研究代表者立命館大学スポーツ健康科学研究科 博士課程後期 吉居 尚美
共同研究者
立命館大学スポーツ健康科学研究科 博士課程後期 松谷 健司
東京大学大学院総合文化研究科 小笠 原理紀
立命館大学スポーツ健康科学部 佐藤 幸治
立命館大学スポーツ健康科学部 藤田 聡
■要旨
本研究では高齢者における長期的なレジスタンス運動(RT)に伴う筋量の変化に着目し、タンパク質代謝に重要な因子の一つである栄養摂取量との関係について検討した。健常な高齢者男性10名を対象とし、RTを週3回、12週間継続して行った。両脚筋量はRT終了後に有意に増加した(p<0.05)が、その筋肥大率は0.7〜6.1%と個人差が生じた。RTは介入前後の栄養摂取状態には有意な影響を与えなかった。RT終了後のタンパク質摂取量は体重あたり1.62±0.11g/kgBW/dayであり、推奨量を上回っていた。同様にタンパク質合成に重要であるロイシン摂取量は体重あたり118±10mg/kgBW/dayと必要量以上を摂取していた。RTによる骨格筋の増加量とロイシン摂取量との間には有意な相関関係(r=0.69, p<0.05)が認められたが、血中ロイシン濃度と筋肥大には有意な相関は認められなかった。以上のことから高齢者におけるレジスタンス運動による骨格筋量の増加には、タンパク質摂取量、特にロイシン摂取量が重要であることが示唆された。
食物選択に対する認知的視点から元気高齢者の食物選択を支援する研究
−食物選択動機質問票(FCQ-E)を用いた
食物選択動機の把握と実際の食物選択との関連から−
研究代表者京都ノートルダム女子大学生活福祉文化学部 教授 加藤 佐千子
■要旨
地域在宅高齢者への食事支援を考える研究の一環として、地域在宅高齢者の食物選択動機の重要度の違いと属性が実際の食物選択や食習慣に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。
質問紙調査によって地域在宅の健常高齢者286名の食物選択動機(高齢者用食物選択動機質問票を使用)、食物選択、食習慣の状況、属性を把握した。食物選択動機を変数とするクラスター分析により協力者を類型化した後、属性とクラスターを説明変数とする2要因分散分析を行い、食物選択と食習慣への影響を検討した。
協力者は食物選択動機の重要度別で4つのクラスター(「重視しない人々」「やや重視する人々」「体重コントロールを重視する人々」「最も重視する人々」)に分類された。食物選択得点や食習慣得点は「食物選択動機を最も重視する人々」の方が「重視しない人々」よりも高得点であった。食物選択動機を高める工夫によって食物選択や食習慣の改善を期待できると考えられた。
虚弱高齢者を対象とした運動継続のための評価スケールの開発
−多理論統合モデルに基づく評価尺度の信頼性と妥当性、
身体活動介入に向けた基礎的調査報告−
研究代表者京都橘大学健康科学部理学療法学科 助手 岩瀬 弘明
共同研究者京都橘大学健康科学部理学療法学科 教授 村田 伸
■要旨
【目的】虚弱高齢者を対象に、多理論統合モデルに基づく評価尺度を作成し、その有用性を検証すること、ならびに行動変容ステージ別の身体機能的特徴を明らかにすることである。【方法】要支援・要介護認定を受けている高齢者を対象に、行動変容ステージ、意思決定のレベル、セルフ・エフィカシーを評価する尺度を作成し、その信頼性と妥当性を検討した。また、行動変容ステージ別に骨格筋量と活動能力を比較した。さらに、骨格筋量に関連する因子の抽出を行った。【結果】作成した評価尺度の信頼性と妥当性が確認された。行動変容ステージ別に比較した骨格筋量と活動能力に有意な群間差はなかった。骨格筋量を予測する重回帰分析の結果、年齢と通所リハビリテーションの利用回数が抽出された。【結論】虚弱高齢者を対象とした運動継続のための評価スケールの信頼性と妥当性が確認された。また、多理論統合モデルに基づく身体活動介入を有効に進めるためには、単に定期的な運動を継続するのではなく、個々の体力に合わせた運動処方が必要となる可能性が示された。
キーワード: 虚弱高齢者,多理論統合モデル,信頼性と妥当性
変形性関節症に対する効果的なユビキタス治療法の開発
研究代表者京都大学大学院医学研究科 教授 黒木 裕士
共同研究者
京都大学大学院医学研究科 青山 朋樹
京都大学大学院医学研究科 長井 桃子
京都大学大学院医学研究科 山口 将希
京都大学大学院医学研究科 飯島 弘貴
京都大学大学院医学研究科 伊藤 明良
■要旨
高齢者自身が簡単にいつでも実行できる変形性関節症(以下OA)に対する治療法を開発するため、温浴による温熱刺激がOA進行防止効果を有するかどうかを明らかとすることを目的として研究を行った。
実験1として、関節軟骨組織の生体外実験を用いて一酸化窒素ストレスによる軟骨細胞死に対する温浴刺激の抑制効果を解析した。その結果、20分間の32℃〜43℃の温浴刺激は、一酸化窒素ストレスによる軟骨細胞死を抑制する有意な効果は認められなかった。実験2として、OAモデルラットを用いて温浴刺激によるOA進行防止効果を解析した。41℃の温浴刺激を20分間与えることで、温浴刺激を与えない対照群と比較して有意にOA進行が防止された。
本研究により、OAモデルラットにおいて早期から温浴刺激を与えることで、OA進行を抑制し得ることを示唆した。OAが軽度な段階より適切な温浴指導を行うことが、有効なOA進行防止治療法となる可能性を示唆した。
限界集落における後期高齢者の
強みを軸にした生活支援プログラム開発への課題の検討
研究代表者京都光華女子大学健康科学部看護学科 講師 水野 静枝
共同研究者京都光華女子大学健康科学部看護学科 中村 正子
■要旨
本研究の目的は限界集落に在住する後期高齢者の生活者としての考えや取り組みに表れた強みを強化し、高齢者がその人らしく住み慣れた場所で暮らしながら健康長寿を目指すための生活支援プログラムを開発するための課題を検討することである。
A県B村の山間部にある限界集落在住の後期高齢者5名を対象に、面接ガイドを用いて1回30分程度の半構造化面接を行った。
その結果、【村で気持ちよく暮らすために出来ること】、【何気ない日々の営みでも、誰かの役に立つこともあると認識】、【自分にしかできない役割の認識】、【村での暮らしを支える人とのつながり】、【村での暮らしを支える地域の資源】、【村で暮らす中で感じる困りごと】、【住み慣れた集落で暮らすための必要な支援】が見出された。
後期高齢者がその人なりのペースの暮らす姿を尊重し、さらに高齢者自身に内在する強みを活かした生活支援を提案していく必要がある。
伝統医療と温熱療法を用いた中高年における肥満改善プログラムの構築
―内臓脂肪型肥満に着目して―
研究代表者明治国際医療大学鍼灸学部 木村 啓作
共同研究者
明治国際医療大学医学教育研究センター 渡邉 康晴
明治国際医療大学鍼灸学部 片山 憲史
明治東洋医学院専門学校 矢野 忠
■要旨
肥満は生活習慣病のリスクを高めるため、医学的・社会的に大きな問題となっている。本研究の目的は、伝統医療と運動の組み合わせによって肥満の予防と改善に取り組むことである。本研究では基礎的研究として、中高齢者にも適応可能な治療法と運動プログラムを確立するために、本学における青年期の肥満学生を対象に検討を行った。その結果、体重、腹囲、体脂肪率はプログラム実施後に著明な変化が認められなかったが、皮下脂肪量は減少する傾向を示した。腹筋群量は、プログラム実施後に有意に増加した。最大筋力は腹筋群、殿筋群、ハムストリングス、前脛骨筋は増加する傾向を示した。以上のことから、腹部への局所刺激とレジスタンストレーニング(RT)が局所の代謝量上昇やエネルギー消費を促した結果、皮下脂肪量を減少させ、腹筋群量を増加させた可能性が示唆された。今後、中高齢者に対しては、食事コントロールや有酸素運動も付加し、参加者同士が励まし合い楽しめる環境下でのプログラム構築が必要であると思われた。
高齢者の健康維持に向けた在宅での電解水利用に関する研究
研究代表者大阪電気通信大学 医療福祉工学科 教授 海本 浩一
共同研究者
大阪電気通信大学 医療福祉工学科 鎌田 亜紀
神戸常盤大学 医療検査学科 柳田 潤一郎
■要旨
食塩水を電気分解すると、陽極側に次亜塩素酸を主成分とした有効塩素を含有する酸性の電解水が生成する。この水の特徴は強い殺菌力を持ち、しかも次亜塩素酸は残留性がないため、環境汚染が少なく在宅でも容易に作成、廃棄できる。微酸性領域の電解水(pH 5.0 - 6.5)は生理的pHを有し、生体に対し使用するのに適している。しかし、微酸性電解水の生成には塩酸を電気分解するが、塩酸の使用は在宅では適さない。今回、在宅使用を考慮し食塩水から微酸性電解水を生成するために、円筒型無隔膜装置を開発した。本装置の特徴は外装容器を陰極に使用し、中央にグラファイト棒を陽極として置くことで、安価でシンプルな形状とした。
結果として、0.1%の希薄な食塩水をDC20V、30分電気分解することで、pH5.6、有効塩素濃度13.7ppmの微酸性電解水を生成することができた。また、この電解水は大変強い殺菌作用を有することが分かった。
本装置は高齢者の在宅ケアにおいて、殺菌消毒剤として様々な用途に使用できる可能性がある。
(2)2011年度2年助成
安定期慢性閉塞性肺疾患患者の
日常生活における体調調整の特徴に関する研究
−体調調整の特徴からみたサブグループの検討−
研究代表者兵庫県立大学大学院看護学研究科 博士後期課程 河田 照絵
■要旨
安定期COPD患者の日常生活における体調調整の特徴について量的手法を用いて明らかにすることを目的とした。本研究では事前研究から作成したCOPD患者の日常生活における体調調整の行為に関する質問紙、SF-36、セルフケア能力を査定する質問紙(SCAQ)などを用い、外来通院中のCOPD患者に依頼し、郵送法により調査用紙を回収した。分析では421名を分析の対象とし、体調調整の行為に関する質問紙の得点をもとにWard法を用いた階層的クラスター分析を行った結果、6クラスに分類された。クラス分類は高得点群(クラスA、B)、中得点群(クラスC、D)、低得点群(クラスE、F)に分類された。6クラスについて分散分析による検定を行った結果、平均年齢、就業状況、MRC息切れスコア、SF-36、SCAQでクラス間に有意差がみられた。これらよりサブグループ化は体調調整への取り組みの高さや年齢、重症度などの特徴に加え、病気の受け止め方、患者が捉える身体像と身体状況の違い、見通しの持ちよう、身体への意識の在り方や健康観の違いなどにも影響を受けていることが明らかになった。
C.分野横断的課題関係
(1)2012年度1年助成
体躯センサーKinect for Windowsを用いた
バーチャルリハビリテーションシステムによるリハビリ効果に関する研究
研究代表者井上 悦治
共同研究者金川 真也 北村 真一郎 辻下 守弘 小貫 睦巳
■要旨
当システムは、本来厳しい、痛い、つらいリハビリテーション運動を、ゲーム感覚で楽しくリズミカルにできないかという甲南女子大学・辻下教授の提唱から、マイクロソフト社製体躯センサーKinect for Windowsを用い、仮想空間に被験者を存在させて、体躯胴体自体をコントローラとしたゲームを行うことで手足を動作させることにより、リハビリ効果を狙うものである。このコンセプトを基にいくつかゲームを作って、実際の病院、特別養護老人ホーム、高齢者ケアセンターなどで試してみたところ、当初想定できなかった問題もいくつか発生し、実用化には解決しなければならない課題も浮き彫りになってきた。今回はこれらの原因と対策を追及し、今後の開発の目標にしたい。
キーワード: 仮想空間、没入型、高齢者
熟練介護者の有する要介護者も介護者も快適な介護動作の解明
研究代表者大阪産業大学 デザイン工学部 後藤 彰彦
共同研究者
大阪産業大学 デザイン工学部 高井 由佳
京都工芸繊維大学大学院 工芸科学研究科 濱田 泰以
京都工芸繊維大学大学院 工芸科学研究科 来田 宣幸
㈱シティー・エステート 山本 晃嘉
■要旨
熟練と言われる域に達するまで長く働き続けてきた介護職員は、介護における疲労しにくい動作の暗黙知を有し、要介護者が安心して、心地良く介護を受けることのできる動作の暗黙知を有していると考えられる。本研究では、熟練介護職員の有する疲労しにくい介護動作の暗黙知を形式知化し、熟練介護職員の介護動作のどのような点が要介護者に安心感や心地良さを与えるのかを明らかにすることを目的とした。まず、三次元動作解析を用いて腰痛を起こしにくく、要介護者に安心感を与える移乗動作の検証を行った。次に、眼球運動測定を用いて、熟練介護職員の視線の動きの特徴を明らかにした。さらに、脳波測定を用いて、介護職員の経験年数が要介護者のリラックス度に及ぼす影響を明らかにした。
動作解析より、骨盤ベルトを着用することで非熟練職員のwaist鉛直方向の加速度およびジャーク値、前屈角のヨーレート微分値が変化し、非熟練職員が熟練職員と同等の滑らかな動作を行うことができることが明らかとなった。眼球運動測定より、熟練介護職員は、視線の移動速度が速く、要介護者の特定の部位に着目して作業を行うことにより、作業時間を短縮し、要介護者にとって快適な介護を行っていることが示唆された。脳波測定より、経験年数が長い介護職員による介護においてα波占有率の上昇率が高くなる傾向がみられ、要介護者はよりリラックスして介護を受けていることが示唆された。しかし、経験年数が長い場合でもα波占有率の上昇率が低下しているケースがあった。この時、介護職員は要介護者に向けて多くの発話を行っており、要介護者が会話を行ったことでβ波が有意になり、α波占有率の上昇率が低下したのではないかと考えられる。