
助成事業調査・研究助成の過去助成状況
2008年度「研究助成報告書」
I.一般部門
A.福祉の向上関係
(1)H18年度1年助成
要介護高齢者の家族における虐待の背景とその予防に関する研究
―とくに息子による虐待を中心として―

流通科学大学サービス産業学部 上田照子

国立長寿医療センター長寿政策・在宅医療研究部 荒井由美子
関西医科大学公衆衛生学講座 西山利正
■要旨
息子による介護の実態と、虐待の発生要因を明らかにすることを目的として、在宅の要介護高齢者とその息子を対象とし、ケアマネを回答者として質問紙による調査を行った。153の有効回答を得たが、主介護の息子142人を主な分析対象とした。 主介護者である息子の56.3%が独身であり、介護の知識・技術に乏しい者や、介護負担が大きい者、介護が行き届いていない者が多かった。 主介護者である息子による虐待は19.0%に見られ、虐待の実態は、心理的虐待と介護の放棄・放任が多かった。 虐待は、高齢者側では「要介護度が高い」、「息子との人間関係が悪い」、「近隣との交流がない」等において高率で、息子の側では、「独身である」、「経済状態が苦しい」、「介護の知識・技術が不十分である」、「介護負担感が大きい」、「介護の協力者がいない」、息子の性格が「自己中心的である」、「怠惰である」、「親への依存がある」等の場合に高率となることが認められた。 息子が介護している場合には、息子特有の多様な介護環境があり、これらに 配慮した援助が必要である。
高齢者にとって気付きやすい音の設計と開発
―心理面と生理面からのアプローチ―

大阪府立産業技術総合研究所 片桐真子

大阪府立産業技術総合研究所 山本貴則
大阪府立産業技術総合研究所 木村裕和、大阪大学大学院工学研究科 西嶋茂宏
■要旨
高齢者にとってQOL(Quolity of Life)を高め安全で安心な生活を送るために、音は身近な情報伝達手段である。本研究は、人の音刺激に対する評価方法を従来の物理特性だけではなく、生理面・心理面の両面から検討し、高齢者にとって気付きやすい音の特徴を抽出することを目的とする。被験者実験を行った結果、以下の知見を得た。 (1)聴力検査から、加齢とともに高音域の聴力低下が顕著で両耳の聴力バランスに変化が生じるため、高齢者に対して音を呈示する場合は、音量のみならず方向定位に対する配慮が必要である。 (2)生理反応計測から、心拍のR-R間隔の変動から気付きやすい音を抽出する評価方法は有効である。 (3)生理反応から、高齢者にとって気付きやすい音は周波数帯域によって音の特性が異なる。 (4)心理評価から、高齢者にとって気付きやすい音は、協和音程や正弦波である。 (5)1kHz付近の音であれば、音色や音程に影響を受けにくい。
認知症の心理テストバッテリー評価と近赤外分光法(NIRS)による
前額部脳血流動態変化の相関性の研究

大阪市立大学・大学院生活科学研究科 曽根良昭

大阪市立大学大学院・生活科学研究科 原田智子
大阪市立大学大学院・生活科学研究科 宮本雅代
大阪市立大学大学院・生活科学研究科 福本幸恵
大阪市立大学大学院・生活科学研究科 篠田美紀
大阪市立大学大学院・生活科学研究科 谷直樹
大阪くらしの今昔館・大阪市立住まいのミュージアム 新谷昭夫
大阪市立弘済院附属病院 中西亜紀
大阪市立大学大学院・医学研究科 三木隆己
東洋大学・ライフデザイン学部 野村豊子
■要旨
我々は軽度認知症患者に対するグループ回想法の効果について心理テストバッテリー評価と近赤外分光法(NIRS)による前額部脳血流動態変化により検討した。この研究に参加した認知症患者は、医師によりアルツハイマー病と診断され、年齢は60歳から80歳の男女で長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)は12点以上であった。グループ回想法は毎週金曜日、午後1時30分から約1時間、大阪市立弘済院に設置された“懐かしの間”で1クール10回実施した。グループ回想法の2日目と最終回、10日目に認知知能テストバッテリーより選んだ5問(又は4問)のテストを実施し、その間の前額部脳血流動態変化を近赤外分光法(NIRS)にて測定し認知症の心理テストバッテリー評価点数と近赤外分光法(NIRS)による前額部脳血流動態変化の相関性について検討した。その結果、グループ回想法参加の初期(2日目)には心理テストに対する脳血流動態変化(パターン)が認知症特有のパターンを示したものが終了時(10日目)には健常者のパターンに近くなる例が多くみられた。特に逆唱に対するスコア上昇(減少)とそれに対する酸素化ヘモグロビンと総ヘモグロビンの上昇(減少)の相関性が両額で60%と高かった。このことから軽度認知症患者に対する回想法の効果検証にはNIRSによる脳血流動態変化、特に逆唱に対する脳血流動態変化に注目することが有効ではないかと考えられた。
小規模コミュニティスペースの計画・運営手法に関する研究

大阪大学大学院工学研究科 松原茂樹
■要旨
地域住民の居場所として近年増加している小規模コミュニティスペースの計画・運営手法を確立するために、小規模コミュニティスペースの1つを対象に、計画段階から実際の運営まで参与調査を行い、一小規模コミュニティスペースの成立条件を以下に明らかにした。 (1)地域に存在するニーズを読み取る、(2)計画段階から地域のコミュニティ活動の中心的役割を果たすキーパーソンに運営方法や地域連携について積極的な助言を求める必要があること、(3)地域コミュニティに根ざした場所にするために計画段階から地域住民に参画できる仕組みを作る必要があること、(4)誰もが気軽に立ち寄ることができる場所の確保・運営には資金面の確保が必要であること、(5)交流のきっかけとして飲み物の提供だけでなく、高齢者にとって食事を楽しみにする人が多く、提供する意義があること、(6)対象を同世代だけに限定せず多世代が参画し、利用することに価値があること、(7)誰もが入りやすいように物理的に工夫が必要であること
B.健康の維持・増進関係
(1)H18年度1年助成
地域在住高齢者におけるIADL保持のための因子探索
―骨塩量からみた骨の健康の評価方法―

大阪医科大学医学部衛生学・公衆衛生学 臼田寛

大阪医科大学医学部 河野公一、 大阪医科大学医学部 渡辺美鈴
大阪医科大学医学部 谷本芳美、大阪医科大学医学部 渋谷孝裕、大阪医科大学医学部 孫?
■要旨
骨量に寄与する身体機能項目を探索し、IADL低下予防のために必要な骨量を提言することを目的とした。方法:大都市近郊のT市に在住する65歳から89歳の高齢者175人(男性70人、女性105人)を対象に、骨量と身体機能測定値との関連を調べた。骨量は超音波骨密度測定装置で測定し、Stiffness値を用いた。身体測定項目は通常歩行速度、最大歩行速度、障害物歩行、Timed Up & Go、階段昇降、1日平均総歩数、握力、開眼片足立ち、椅子の立ち上がり、BMI、残歯数である。結果:骨量の平均値は男性84.8、女性69.7であった。ステップワイズ法による重回帰分析から骨量に寄与する因子は、男性で1日平均総歩数とBMI、女性で通常歩行速度とBMIであった。 以上の結果から健康日本21の目標歩数(70歳以上の男性で6,700歩)、介護予防の運動器の機能向上を目指した通常歩行速度の目標値(女性1mを1.0秒未満)、BMI基準値(22)を用いた場合のIADL低下予防のために必要な骨量は男性で77.7、女性で59.4と予測される。骨の健康という視点から、男性では1日平均総歩数の増加、女性では日常の通常歩行を、時には速くするような生活行動の習慣が重要となる。
高齢者施設におけるノロウイルス集団感染性胃腸炎の遺伝子学的分類および伝播様式の解析

奈良県保健環境研究センター 北堀吉映

奈良県保健環境研究センター 井上ゆみ子
■要旨
本研究の目的は、高齢者施設で発生するノロウィルス感染症について、ウイルスの遺伝子学的分類を行い伝播様式を理解することにある。奈良県内で2006年10月から2007年3月までに発生した13例の集団感染症例と69例の散発例を、VP1(キャプシド)領域に基づく遺伝子群分類を比較検討した。集団感染症ではすべてがGII/4型、散発例も68例がGII/4型に属するウイルスであった。さらに系統樹解析を11例の集団感染症例と20例の散発例について行った。集団感染症例では10例(91%)がE2006b変異型、1例(9%)がE2006a変異型に属し、散発例では16/20例(80%)がE2006b変異型、2例(10%)がE2006a変異型、非変異型が2例(10%)であった。以上のことから、2006/2007年シーズンに本県で流行したノロウイルスは集団感染例ならびに散発例ともにGII/4型変異型が優位に発生していたことが判明した。また、系統樹解析結果からは集団感染例ではすべてが変異型で、感染力の強いE2006b変異型がヒトあるいは環境汚染を介して感染拡大を起こした可能性が示唆された。
高齢者の転倒を予測するためのDual Task testの有効性

京都市身体障害者リハビリテーションセンター 島浩人

京都大学大学院医学系研究科人間健康科学系専攻 池添冬芽
■要旨
我々は外界からの情報に対する注意と動作の二つの課題を同時に実行しながら日常生活を送っているが、この対応能力が低下すると転倒の発生など安全な日常生活を送る上で支障となる。本研究では、バランス能力(single task)とバランス課題に認知課題を加えた二重課題(dual task)能力を評価して、高齢者と若年者との比較を行った。さらに高齢者を転倒群と非転倒群とに分類し、バランス能力(single taskおよびdual task)、日常生活動作、認知機能との関連について検討を行った。静的バランス能力として重心動揺計測、動的バランス能力としてステッピングテストを実施した。若年者ではdual task下で静的バランス能力は低下しないが、動的なバランス能力は有意に低下し、高齢者においては静的バランス・動的バランスともにdual taskでは有意に低下した。また、静的バランスではsingle task、dual taskともに転倒群と非転倒群との間に有意差はみられなかった。一方、動的バランスではsinge task、dual taskともに非転倒群より転倒群で有意な低下が認められた。このことから、ステッピングテストのような動的バランス課題ではdual taskだけでなく、single taskでも十分に転倒予測が可能であることが示唆された。
認知症高齢者を対象としたカラーセラピー(色彩心理療法)の効果に関する実践研究

京都大学医学部附属病院老年内科 西岡弘晶

社会福祉法人 健光園 奥村幸、COLOR'S陽だまり 足立比呂美
京都大学医学部保健学科 池添冬芽、京都大学医学部附属病院 濱川慶之
■要旨
我が国では高齢者社会の進行とともに、認知症高齢者が急増している。本研究では、高齢者施設の認知症高齢者を対象に、認知機能低下予防を目的として、カラーセラピー(色彩心理療法)を定期的に実施した。カラーセラピー開始前と1年後の認知機能、前頭葉機能、うつ状態を比較し、カラーセラピーの認知症高齢者への効果を検討した。施設入所者のうち、セラピー参加群は7名、不参加群は16名であった。参加群は、1年後の認知機能、前頭葉機能が維持されたのに対し。不参加群では有意な低下がみられた。両群ともうつ状態への有意な影響は認めなかった。またカラーセラピーは、施設のレクリエーションの一つとして介護職員によって運営することができた。 以上より、カラーセラピーは高齢者施設で実施可能であり、高齢者の認知機能低下を予防できる可能性があることが示唆された。
高齢者を対象とした運動促進のための効果的な介入方法に関する研究

大阪府立大学総合リハビリテーション学部 野村卓生

大阪府立大学総合リハビリテーション学研究科 講師 伊藤健一
大阪府立大学総合リハビリテーション学研究科 教授 林義孝
高知女子大学大学院研究員 理学療法士 明崎禎輝
高知女子大学大学院研究員 理学療法士 吉本好延
高知女子大学大学院健康生活科学研究科生化学研究室 教授 佐藤厚
■要旨
今回我々は、高齢者の運動促進のための介入方法として、動機付けや行動を維持させるためのモチベイショナル・ツールを用いた介入の効果について60歳以上を対象に検討した。また、介入による長期効果を検討するために介入1年後にアンケート調査を実施した。 対象は、介入群(n=26)、対照群(n=25)に無作為に振り分けられた。介入群には、8週間の介入期間にわたって、モチベイショナル・ツール(ドアノブカード、教育パンフレット、メールでの情報)が提供された。介入前後に、身体機能(肺機能、握力、下肢筋力、柔軟性、timed up & go test)、主観的健康感、転倒恐怖感、Quality of Life(SF-36v2)、生化学データ(血糖値、HbA1c、総コレステロール、HDLコレステロールなど)を測定した。また、研究期間中は歩数計を用いて、身体活動量を測定した。介入1年後に、運動の継続状況、SF-36v2、基本チェックテスト(厚生労働省)に関するアンケート調査を実施した。 介入/観察前の介入群、対照群の特性に有意な差は認めなかった。介入群の身体活動量(歩数)については7,615±3,087歩/日から、介入開始より4週目に10,368±3,981歩/日に有意に増加した(p<0.01)。生化学データについて、HbA1cは介入時5.4±0.4%から介入終了時(10週目)5.3±0.4%へ有意に改善し(p<0.05)、総コレステロールについても202.0±32.3mgから189.2±28.5mgに有意に減少した(p<0.05)。一方、対照群においては、介入前後で有意な変化を認めなかった。アンケート調査においては、両群の間に明らかな違いは見いだせなかった。 モチベイショナル・ツールを用いた介入プログラムは、高齢者の運動促進に有効であると考えられた。しかしながら、今回の検討では長期効果については不明である。運動促進のためのより効果的な方法を検討することが今後の課題である。
高齢者における転倒・骨折予防のための活動強度を重視した目標身体活動量

大阪府立大学総合リハビリテーション学部 矢澤彩香

大阪府立大学総合リハビリテーション学部 渡辺完児
大阪府立大学総合リハビリテーション学部 小川由紀子
大阪府立大学総合リハビリテーション学部 高橋節子
大阪府立大学総合リハビリテーション学部 吉田幸恵
大阪府立大学総合リハビリテーション学部 今木雅英
■要旨
高齢者の健康づくりや体力の維持・増進のためにどの程度の身体活動が必要であるかについては未だ検討段階である。本研究は、高齢者の体力の維持・増進のための目標身体活動量を提示するための基礎情報を得ることを目的として、加速度計により身体活動量を測定し、身体活動量が筋量(impedance index)や体重と筋量から算出される体重支持指数、さらに体力との関連性について検討した。その結果、歩行数とlight intensityの活動量が転倒予防と関連する体力と有意な相関を示し、高齢者の体力の維持や転倒予防には歩行やlight intensityの活動量が重要な意味を持つことが明らかとなった。
胃がん検診における高濃度硫酸バリウム製剤使用による誤嚥と物理的評価

大阪がん予防検診センター 山本兼右
■要旨
***
(2)H17年度2年助成
高齢者における心拍揺らぎとストレス関連要因の関係についての検討

国立循環器病センター研究所病因部 下内章人

国立循環器病センター研究所病因部 乾紀子
国立循環器病センター研究所病因部 森麻里子
国立循環器病センター研究所病因部 野瀬和利
国立循環器病センター循環器病予防検診部 小久保喜弘
(独)函館工業高等専門学校電気電子工学科 森谷健二
■要旨
高齢者は加齢に伴う体力や免疫力の低下、また種々の疾患を背景としており、生体のストレス応答は若年者とは異なるものと考えられる。本研究では夜間睡眠時の心拍周波数が日中の自覚症状や心理的傾向が推定できると仮説を立て、60歳以上の高齢者を対象に24時間の自由行動下での心電図RR間隔の連続モニターし、その周波数成分パワーをGeneral Health Questionnaires 28, Cornel Medical Index, Self-rating Depression Scale,「睡眠とストレスの調査票」の各質問項目と対比させ、相関関係を網羅的に検討した。その結果、60歳以上の高齢者では、睡眠時HF/TPの低下は抑うつ状態を示唆すること、LF/HFとVLF/TPの上昇は睡眠時無呼吸症候群や途中覚醒などを含む睡眠障害または神経症傾向と関連している可能性があること、さらに各周波数成分のパワーは種々の日常生活や自覚症状と関連していることが明らかとなった。
経口摂取による栄養マネジメント法の確立

大阪大学歯学部附属病院顎口腔機能治療部 野原幹司

大阪大学大学院歯学研究科 舘村卓、大阪大学歯学部附属病院 畦西克己
■要旨
本研究は、経口摂取による栄養マネジメントを確立することを目的に、口腔機能障害を主症状とする口腔腫瘍術後症例をモデルとして検討を行った。 研究1では、術後症例は創部が治癒し退院が可能となっても、低栄養状態にあることが明らかとなった。このことから、退院後も創管理や再発のためだけでなく、栄養管理のためにも再診を行う必要性が示された。 研究1の結果を受け、研究2では、術後症例の栄養マネジメントを開始した。その結果、栄養教育、経腸栄養剤の処方、食事指導、歯科補綴物の利用、嚥下訓練、食物繊維のサプリメント摂取により、栄養状態が改善する症例があることが示された。 本研究の結果、口腔機能の障害が低栄養の原因になり、その低栄養は口腔機能を重視した栄養マネジメントにより改善することが明らかとなった。この結果から、口腔機能障害を有した高齢者の低栄養に対しても、同様のマネジメントが有効である可能性が考えられた。
II.特別部門
高齢者・終末患者の在宅医療管理支援及び急変探知システムの開発

奈良県立医科大学医学部 小林浩

奈良県立医科大学医学部 山田嘉彦、奈良県立医科大学医学部 吉田昭三
奈良県立医科大学医学部 辻順子
■要旨
本研究の目的は在宅医療のための個人情報ネットワーク構築とかかりつけ医が院内にいながらネットワーク情報端末を利用して患者情報を簡単に取得することができる簡易な医療機器の開発を行うことである。今回は高齢者用のモニター機器の開発を行った。在宅患者の顔表情や体の動きの変化を敏感に察知する監視用機器について開発を行い評価した。そのためにコンピュータ内臓のテレビカメラを使い寝たきり老人の顔表情の変化をモニターした。今回、プロトタイプを作成し実証実験を行った。このプロトタイプにはマイクロプロセッサー、回路、電源、無線送信機が内臓されており、端末から患者データを閲覧することができるようになっている。この患者個人情報システムネットワークを利用すると患者家族も情報を共有でき、現在の患者の状態がどうか、身体状態がどうなっているのか、どのようなライフスタイルを送るべきか、を瞬時に見て判断することができる。我々の取り組みについて報告する。