陸上100mといえば、朝原宣治副部長です。言わずと知れた、北京五輪4×100mリレーの銀メダリスト、日本歴代7位の大阪ガス記録(10秒02)を持つ朝原副部長に、今回、同じタイムをたたき出した坂井選手へ期待することを聞きました。

――― 坂井選手の日本選手権での走りをどのようにご覧になりましたか

 彼の実力を考えれば、「普通にいけば面白いレースになるだろう」と思っていましたが、正直、自己ベストや、サニブラウン選手に引けを取らない走りをするとは思っていませんでしたね。何より決勝で自分の走りができた点が凄い。最後までスピードが落ちなかったところが良かったですね。これまで後半どうしても(スピードが)持たなかったので、レベルアップしてきていると感じました。

――― 10秒10というタイムはどれくらい凄いことなのでしょうか

 日本選手権は特別な舞台の3本目のレースで出したことが、非常に、素晴らしいことです。それほど難しいことだからです。サニブラウン選手でさえ、準決勝で10秒04を出したものの決勝ではタイムを落としています。あの時は追い風が+1.1(追い風)でしたから、彼なら9秒台を出してもおかしくない条件でしたが、それでも、準決勝よりも遅いタイムでした。が、坂井は、決勝で自己ベストを出したうえ、10秒10というタイムですから力のある証拠です。

――― 坂井選手の走りで優れているところを教えてください

 まず、キレ味のよいスタートです。 スタート直後はどうしても体が浮きがちになりますが、彼はそれがない。僕は坂井のスタートを勝手に“カミソリスタート”と名付けて流行らせようと思っていますが(笑)、それくらい鋭い動きです。そして、もう一つ。足の回転が速いこと。坂井ほど足の回転が速い選手は、世界的に見てもそうはいません。彼は、100mを53歩で走りますが、なかなか50歩越えの選手はいません。それだけ、速く、しかも最後まで崩れません。

――― 世界の舞台での戦い方について、坂井選手へアドバイスを送るとすれば

個人戦でいえば、スタートは彼の武器ですから、世界でもまず前に出られると思います。そこから特に中盤以降に「こんなスピードで走るのか!」という選手が世界にはたくさんいて、そのスピード感を気にせず走れというのは難しいけれど、こういう舞台での経験を経て、世界の選手を相手の走り方を感覚的に身につけていって欲しい。

 リレーについては、スタートの良さを買われて第一走になると思いますが、普段通りのスタートができれば十分。あとはバトンですね。ご存知の通り、日本は、ギリギリのところでのバトン渡しをします。第二走者へバトンを渡し終わる瞬間までスピードを落とさないよう要求されるので、昨夏の東京オリンピックのときのようなミスが起こりうる、そこを成功させることでしょうね。

――― 坂井選手の世界での戦い振りを楽しむために、見るべきポイントを教えてください

まずは準決勝へ行けるかどうか。行けたら「ようやった」ですよね。自己ベスト近くで走れたら準決勝はいくでしょうし、その走りを見せてくれると期待しています。
 最初の飛び出しと、最後までスピードが落ちない走りを見て欲しい。彼よりも持ちタイムの良い選手と同じ組で走ったとしても、前半は、彼が前に出ることは十分にあり得ます。あとは、ぜひ、彼の歩数を数えて欲しいですね。あまりの速さに、目が追いつかないでしょうけれど(笑)