市原バイオマス発電所を建設するに至った経緯は?
寺嶋 本件はもともと、伊藤忠商事さまと三井E&Sエンジニアリングさまによって立ち上げられたプロジェクトでした。
Daigasグループには長年にわたり培ってきた火力発電の技術力と知識に加え、バイオマス発電の開発ノウハウもあったため、これらを本件で活かせないかと声をかけていただいたのがきっかけです。
その後、検討・協議を重ね、3社の共同出資により合弁会社「市原バイオマス発電株式会社」を立ち上げ、プロジェクトを始動する運びとなりました。
完成した市原バイオマス発電所は、2020年12月17日より商業運転を開始しています。
*ご参照:千葉県市原市におけるバイオマス発電所の商業運転開始について(プレスリリース)
https://www.osakagas.co.jp/company/press/pr2020/1290940_43661.html
バイオマス発電とは
バイオマス発電は、植物由来の木屑等を燃料とし、これを燃焼しボイラで発生させた蒸気でタービンを回して発電を行うものです。植物の成長から発電所での消費までの過程で二酸化炭素排出量が増加しないクリーンな発電方式です(カーボンニュートラル)。
市原バイオマス発電株式会社における、3社それぞれの役割は?
寺嶋 三井E&Sエンジニアリングさまには発電所の設計から資材調達、建設の部分で中心に立っていただきました。いまは三井E&Sホールディングスの海外子会社さまに発電所の運用オペレーションとメンテナンスを担っていただいています。
伊藤忠商事さまの役割は、海外でのバイオマス燃料の確保や輸送など、燃料調達にかかわる事項の全般です。
Daigasグループは火力発電所の建設や運用経験を持つ者として、本プロジェクトに関わる事業者間で合意が得られるよう最適な調整を図る役割を担っていました。
発電設備の設計や建設工事、運用オペレーションにメンテナンス、トラブル時のサポート対応から、ファイナンス組成、燃料調達方針の策定・評価・改善案のご提案まで、各所で私たちが持つノウハウを役立てられたと思っています。
建設に至るまでの過程にはさまざまな困難があったとのことですが。
寺嶋 合弁会社を設立することによるメリットは、複数の企業が持つ技術やノウハウを共有して事業組成に役立てられる点です。
しかし、私たちは市原バイオマス発電株式会社のメンバーであると同時に、各参加企業の社員でもあります。
合弁会社としての利益を第一に考えながらも、各々が自社の利益も確保する立場でもあるため、ときにはお互いが譲れない点をぶつけ合いながら熱い協議を繰り広げる場面もありました。
協議にはかなりの時間と体力を要したとか。
寺嶋 そうですね。たとえば発電所の運用オペレーションとメンテナンスに関しては、三井E&Sホールディングスさまの海外子会社に委託しています。
交渉にいらしたのはヨーロッパの方だったのですが、今回初めて日本でプロジェクトを受託するということもあってか、かなり根気のいる交渉でした。
契約書に記す内容にはかなりの詳細さと明確さが求められ、「このような事態が起こった場合はどう対応するか」というIFケースで溢れました。
しかし、さまざまな「もしも」を想定して作成した契約書ですから、今後なにか起こった際には的確な対応ができると思います。その点では、時間と体力を要しても得るもののほうが多かったのではないでしょうか。
私自身、海外の方との最初から最後までの交渉は初めてでしたので、貴重な経験ができたと思います。
では、建設自体はスムーズに進みましたか?
寺嶋 本プロジェクトは2018年3月にパートナー3社の社長が出席して起工式を開き、施工開始となりました。順調に建設が進む最中、2019年9月にちょうど千葉県市原市に台風15号が上陸したんです。
猛烈な風が吹いたことで建設中だった一部の部品が損傷し、再製作が必要となる事態に見舞われました。
大幅な工程遅延を覚悟しましたが、三井E&Sエンジニアリングさまを中心に3社の知見を総動員して修復作業にあたった結果、最小限の工程遅延で収めることができました。
新型コロナウイルスの流行による影響もあったのでは?
寺嶋 はい、新型コロナウイルスの感染拡大により外国からの入国制限がかかってしまったため、海外からの技術指導員が来られなくなってしまったんです。
対策として、装着型のWebカメラを用いてリモートで現場状況を共有し、ヨーロッパにいる技術指導員とリアルタイムでやり取りを行いながら適切な作業を指示いただくなど、先進的な取り組みで工事を進めることになりました。
Daigasグループでは発電所の運用においてIT機器を導入していますが、遠く離れたヨーロッパと日本を繋ぎ、発電所の建設待ったなしの状況で実践したのは思い切った判断だったと思います。
数々の困難を、3社がワンチームとなって乗り越えられた理由はなんだったのでしょうか。
寺嶋 私たちはそれぞれの強みを活かすべく合弁会社を設立し、「市原バイオマス発電所を無事に完成させる」という共通のゴールを持っていました。
各社がプロフェッショナルとしてそれぞれの役割を果たし、お互いを尊敬し合いながら完工まで走り続けられたことが、ワンチームとなれた大きな理由のひとつだと考えています。
今後はどんな発電事業に携わっていきたいですか?
寺嶋 Daigasグループでは2021年1月に「Daigasグループ カーボンニュートラルビジョン」を発表し、2030年度時点で500万kWの再生可能エネルギー電源の普及を掲げました。
今後も風力や太陽光などあらゆる再生可能エネルギーを活用した電源の開発を加速させていく予定です。
今回の、伊藤忠商事さま・三井E&Sエンジニアリングさまとの連携でバイオマス発電所を完工させたという実績は、Daigasグループにとっても大きな一歩となりました。今後の開発業務でも他社パートナーと密な関係を築き、さらなる事業機会に繋げていきたいですね。
今後の展望と、意気込みをお聞かせください。
寺嶋 今後も努力を怠らず、技術力と知識を伸ばしながら、環境に配慮した発電について考えていきたいと思っています。
火力発電の分野では、CO2を排出しない水素を燃料とする取り組みや、CO2を有効活用する方法、地下に貯蔵することで地上のCO2を削減する取り組みなどに興味があるので、未来にこれらを実現させるのが当面の目標です。
技術力を伸ばしつつ、マネジメントスキルも磨きながら、プロジェクト管理者として立ち回る未来も視野に入れています。さまざまな可能性を感じながら、これからも仕事に邁進していきたいです。