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大阪ガスは、「いただきます」で育もう。をスローガンに、食育活動に取り組んでいます。

食育シリーズ

今、そして未来に伝えたい「日本の食文化」

その4  日本の食文化を伝えるために

執筆:東京家政学院大学 名誉教授 江原 絢子先生

今回がこのテーマによる最終回となります。これまでユネスコ無形文化遺産に登録された「和食;日本人の伝統的な食文化」を中心に、日本の食文化の特徴についてお話しいたしましたが、少しは、その魅力を感じていただけたでしょうか。今回は、その魅力の何を次世代に伝えたらよいのかについてお話しします。
まず、日本の食文化の何を継承したらよいのかについて、これまでにもふれてきたことをまとめてみましょう。大きく分けると下記のように、3つにまとめられると思います。

  1. 1. 自然を尊重する心を伝える
  2. 2. 健康増進のために必要な知識と知恵を伝える
  3. 3. 食を通して地域や家族の絆を強める

最初の「自然の尊重」は、ユネスコ無形文化遺産でももっとも重視されている「和食」の特徴ですが、多くは目に見えない「心」「精神」などが背景にあるためについつい忘れがちになります。

日本の自然は、米をはじめとした多様な農産物などを発展させ、多くの魚介類や海藻を食材とすることを可能にし、豊富で良質な水により、だしの文化、日本酒や緑茶の文化など多彩な食文化を形成する例にみられるように多くの恵みを与えてきました。しかし、いっぽうで、風水害などによる凶作、飢饉など人々に多くの被害も与えてきました。それ故人々は、人智を超えた自然を神として崇め、災害のない世を願い、豊作をもたらし、健康や長寿を祈りながら自然に対して謙虚に暮らしてきました。様々な行事のほとんどは、神仏への祈りが基にあります。

前回、正月を前に、歳神様を迎えるために身を清めていろいろな準備をすることをお知らせしましたが、大切な「神様」を迎えることがいかに大事な行事の中心となっていたかを知ることが出来ます。行事と行事食を続けることも大事なのですが、それを通して祈りを込めてきた人々の「心」を伝えること、行事の意味を伝えることが大事でしょう。

また、自然から得られた食材を大事に最後まで使い尽くすために工夫された加工品、調理法に関わる技術や思いなどについて知ることや経験することにより、その優れた知恵に気づくのではないかと思います。

乾物を作る際に、比較的湿度の高い日本では、早く乾燥させるため薄切り、細切り、加熱して乾燥するなどの工夫がみられます。例えば切り干し大根、かんぴょう、乾麺は前者の例。ぜんまい、干し芋、煮干し、干し貝柱、麩、ゆばなどは後者の例でしょう。地域によっては冬の昼と夜の寒暖差を利用した凍結乾燥品もあります。高野豆腐、寒天、凍み芋、凍み餅などです。さらして乾燥させた、くず粉、寒さらし粉(白玉粉)などは、良質で豊富な水の存在が生み出した加工品です。寒の水は不純物が少なく、その水を使った加工品は腐りにくいとされ、日本酒は、雑菌の少ない「寒仕込み」が一般的でした。

また、魚介類をすべて使い尽くす工夫も行われてきました。鯉こくは、筒切りの鯉の味噌煮ですが、ニガ玉を除けば、頭、骨、内臓、ウロコに至るまで利用できる料理です。また、魚を丸ごと揚げて酢醤油につけた南蛮漬け、包丁でたたいた後、すり鉢で擂るなどすればつみ入れの一つにもなります。包丁、すり鉢などの発達も加工や調理の工夫を支えたといえましょう。調理や加工品の背景にあるこのような工夫の心も伝えたいところです。

季節に合わせた食材を用い、食器を選択することも大事な日本の食文化の特徴で、自然の尊重につながるものといえます。子どもだからといって壊れにくい食器ばかりではなく、塗りのお椀のぬくもりを感じさせることや美しい陶磁器に盛った料理から美味しさを感じさせることは、日々の暮らしのなかで、もてなしの心やおいしさには料理だけが関与しているのではなく、さまざまな配慮が関わっていることを知らせたいもの。そのためには、用意する側に心のゆとりがなければ出来ないことです。毎日ではなくても特別な日には、是非、食器や食卓のしつらえなどにも心を使いたいものです。

江戸時代の料理書のなかに、料理は「舌で味わうだけでなく、目でも味わい、鼻でも味わい、心で味わう」とあります。盛りつけや食器の大切さ、だしの香り、吸い口に添えたゆずや木の芽の香り、作ってくれた人、食材の恵みなどを感じて食べる心、それらが備わってこそ美味しさを感じられることを伝えています。

健康とも関わる日々の食事でもあるご飯をベースとして汁、おかず、漬物を基本としてきた組み合わせについては、第2回目で詳述しましたが、とくにだしの味など香りのあるうま味は、自然なままでは習慣化しないといわれています。子どもの頃から繰り返し、慣れ親しむことがあってはじめて定着するといえるでしょう。習慣化する油脂類や砂糖などと異なり、エネルギーのほとんどないだしは、美味しさを感じる健康的なものともいえますので、だしへの食習慣を小さな頃からつけることや基本形を日常のベースにすることで、繰り返しその形を身体で感じることで身につくことが期待されると思います。

地域の郷土食も行事などを通してその味に慣れ、家庭でも食べることは、地域に対するアイデンティティーを確認することにもつながるでしょうし、家族や地域の絆を深めることにもなります。ただ食べるだけでなく、それを作る過程をみたり自分でも経験したりすることがあれば、なじみのなかった食材や料理への関心がより高まるはずです。

簡単な調理、洗う、混ぜる、包む、擂る、切るなどから少しずつ調理の基礎を身につければ、自信もつくし生きる力にもなるでしょう。しかし、そのためには、おとなたちも日本人が育んできた食文化を理解することで魅力を感じなければ、その情熱は伝わらないともいえるでしょう。

目でも食べる和食の写真(撮影:江原先生)

目でも食べる和食(撮影:江原先生)

 

一般社団法人和食文化国民会議は、ユネスコ無形文化遺産となった「和食」文化を保護・継承する団体です。ユネスコに経過報告の義務もあるからですが、会員の意見を聞きながら何を保護し継承すべきかについて考え、実践していく予定です。ホームページをごらんいただき、参考にしていただければ幸いです。

 一般社団法人和食文化国民会議ホームページ
http://washokujapan.jp/conference/



江原 絢子(えはら あやこ)名誉教授 プロフィール

江原 絢子(えはら あやこ)名誉教授

島根県出身。1966年お茶の水女子大学家政学部食物学科卒業。博士(教育学)
東京家政学院大学教授を経て現在、同大学名誉教授・客員教授。専門は、食文化史・食教育史・調理学。「「和食」文化の保護・継承国民会議」(「和食会議」)副会長
主な著書:『和食と食育』(編著 アイ・ケイコーポレーション2014)、『家庭料理の近代』(単著 吉川弘文館2012)、『近代料理書集成−日本の食文化史』全13巻(編・解説 クレス出版2012・13)、『おいしい江戸ごはん』(共著 コモンズ2011)、『日本の食文化史年表』(共編 吉川弘文館2011)、『日本食物史』(共著 吉川弘文館2009)など


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