- 2020年から、新しいテーマを掲げた居住実験がスタートしたと聞きました。
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これまでは6〜7年を1つのフェーズとし、それぞれテーマを設定してさまざまな実験に取り組んできたのですが、2020年からは、住まいの課題にタイムリーに対応していくフレキシブルな運用にしようと考えました。今、住まいの課題としては、やはり低炭素社会の実現という観点から、まず省エネや省CO2が挙げられます。ただし、快適性は担保したい。そこで、両者を兼ね備えた「快適な住空間」をテーマの1つに掲げました。
もう1つ、着目した課題が「防災」です。昨今、自然災害が多く発生することから防災の意識が高まっており、住まいにも災害時の対応力が求められるようになっています。そこで、「万一に備えた住まい」を2つめのテーマとしました。

- 1つめのテーマ「快適な住空間」では、具体的にどのような居住実験を?
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503住戸を全面改修して、新しく「ウェルネスZEH 風香る舎(かぜかおるや)」という住まいを造りました。
- ウェルネスZEH? 初めて耳にしましたが、いわゆる「ZEH※」とは違うのですか?
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ZEHは、一般戸建て住宅ではもはや当たり前になってきています。そこで、省エネ性能である「ZEH」と、健康や快適性という「ウェルネス」を両立させた住まいにしようと考えました。具体的には、「冬期居室温度18℃以上かつ、室間温度差3℃以内のZEH住宅」を「ウェルネスZEH」と定義し、今回の実験でそれが実証されれば、これからの住まいとして広く世の中に提案していきたいと思っています。
※ZEH=「Net Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」の略で、断熱性能や省エネ性能を向上させ、高効率なエネルギー機器や創エネ機器を導入することにより、住まいの年間一次エネルギー消費の収支をゼロ以下にする住宅。
- ZEHはどのように実現したのですか?
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まず構造的に断熱性を究極まで高め、一方で3.6kW出力の太陽光発電パネルと最新型の高効率エネファームを設置してダブル発電することにより、都市型集合住宅でありながらZEHを実現しました。
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- 外部廊下の手すりに設置された太陽光パネル(3.6kW)と、住戸裏手に設置された発電効率55%の最新型エネファーム(700W)
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その上で、
ウェルネス性能も付加された? -
その通りです。その点については専門家の先生に入っていただき、シミュレーションによって室内の温熱環境分布や時間変動を確認しながら設計しました。本当に「冬期居室温度18℃以上かつ、室間温度差3℃以内」が実現できるかどうかは、実際に居住してからの検証ということになります。

- 他にも「快適な住空間」として工夫した点はありますか?
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冷暖房です。よくエアコンの風が苦手だという人がいますが、503住戸では、ガス温水床暖房と天井輻射冷房システムを採用し、気流によって発生しがちな乾燥や不快感の低減を図りました。
また、「風香る舎」という住居名も示す通り、風と香りにはこだわっています。昨今では、断熱性を高めるために窓を小さくしている、あるいは開けられないような住宅が多いのですが、そうではなく、春や秋といった中間期には気持ちよく風を通した方が快適に過ごせるでしょうと。そこで、南北面に開口部を設けて、風が通るようにしました。 -
- 玄関土間に通じる障子は、上下を開けることによって風を通すことができる
- 複数設けられた小窓は防犯効果もあるため、開けたまま外出することも可能
- 「香り」というのは?
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無垢木材の香りです。住まいの内装面積のうち70%程度を木材が占めると、睡眠が深くなるという研究結果があるんです。これも、その研究をされている先生に監修いただいて、無垢の木材を多く使用し、木の香りを感じながらリラックスして健康に過ごせる空間を目指しました。
こうした冷暖房や風、香りによる快適性については数値で測れないので、実際に居住した人がどう感じるかをヒアリングし、設計上のねらいが達成できているかどうかを検証することになります。
