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ENTERPRISE FUTURE
Technology Report 風を読み、気象を読み、予測する

風力発電所建設予定地における
向こう20年間の「風」を予測。

和歌山県西部に位置する山間部に、風車13基が点々と並んでいる。大阪ガスの子会社である(株)ガスアンドパワーが運営する印南風力発電所だ。この発電所を建設するにあたって、大阪ガス・エネルギー技術研究所のシミュレーションチームが一役買っている。発電所の収益性を試算するため、建設予定地にどのような風が吹き、どれくらい発電するかを予測したのだ。

用いたのは、風況シミュレーション技術。風の予測技術と、気象データの解析技術を融合した技術だ。具体的には、まず山の上にどのような風が吹くかをコンピュータで計算するとともに、山上に実際に観測用の風向風速計を設置し計測する。それらのデータに、気象庁が公開している数十年間の気象データを加味することによって補正を行い、最終的な予測値を導き出す。

印南風力発電所の建設にあたっては、こうしたシミュレーションを行って向こう20年間の発電量を予測し、発電所建設地として収益の見込める土地か否かを評価した。さらに、風車の配置場所についても細かく検討した。予定されていた配置場所それぞれの風況をシミュレーションし、「この場所よりも、こちらの方が良い風が吹く」と配置場所の見直しを提案した。風力発電所は大きな投資を伴う大規模な設備。可能な限り最適化された建設が望ましい。シミュレーションチームの働きもあり、印南風力発電所は高い収益性が期待できる発電所として、2018年6月に稼働をスタートした。

より細かく、より高い精度で予測する
気象シミュレーション技術。

この風況シミュレーションは、大阪ガス・エネルギー技術研究所のシミュレーションチームが手がける複雑形状まわりの流体シミュレーションがベースとなっている。基盤となるのはガス事業で培った流体解析技術で、つまり気象シミュレーション技術は大気の運動を解析する応用技術になる。ただし気象予測の場合は、太陽の放射や降雨など熱と水の挙動にも影響を受けるため、それら複数の複雑な要因も含めて計算する必要があり、難易度は高くなる。

加えて、地形も大きく影響する。夏の午後、山沿いに雷雲が発生するのを目にすることがあるが、それは地形の影響を受けた現象の一例である。複雑な地形上で、大気がどのように挙動するかを流体や熱の方程式を用いてシミュレーションするのだ。

大阪ガスの気象シミュレーションの強みは、この地形に大きく関係している。大阪ガスは、西日本という限られたエリアに特化することによって、細かいメッシュ(網の目状の計測単位)での予測を実現可能とした。大阪ガスは84時間先の予測を2.2km四方のメッシュで行っており、一般的な天気予報よりも細かい。メッシュを細かくすれば、地形再現も流体解析もより細かくなり、ピンポイントでの予測が可能となる。

ただし、こうして計算したシミュレーションのデータはあくまでも限られた条件下で行われたものなので、そのままでは十分とは言えない。その地域の特性を把握し、気象データを解釈する「人」の検討を経て、初めて有効な予測情報となる。大阪ガス・エネルギー技術研究所のシミュレーションチームには気象予報士の有資格者が複数在籍しており、さまざまな工夫を施して予測を行っている。最後は「人」の手によって精度を高める──、その知見を有するところに大阪ガスの強みがある。また、この知見と人工知能技術の融合も活用している。

何十年にもわたって培ってきた
シミュレーション技術への大きな期待。

なぜ大阪ガスはこうした技術を有しているのか? その源は約30年前にさかのぼる。大阪ガスでは、ガスファンヒーターが部屋全体をどのように温めていくか、あるいはまた、ガスを燃焼させた時に排気ガスはどのように広がっていくか、といったことを予測するのに流体シミュレーション技術を用いていた。そうして少しずつ対象領域を広げながら、何十年にもわたって知見が蓄積されてきたのである。

その流体シミュレーション技術を用いて、気象シミュレーション技術の開発に着手したのが約10年前のこと。当時は、社内でニーズこそ顕在化していなかったものの、元来エネルギー事業は気象と深い関わりを持っており、いずれ気象予測を考慮して事業を展開しなければならない時代が来るに違いないと、いわばシーズ起点の先行ニーズ対応プロジェクトとして立ち上がったものだった。

その予想通り、現在この気象シミュレーションはその有用性が評価され始めている。実際、大阪ガスの持つある設備では、気象によって運転効率が変わることから、シミュレーションチームの予測した気温と気圧の情報を運転計画に役立てている。さらに大きな期待を寄せられているのは再生可能エネルギーの分野だ。昨今、欧州を中心に予測取引の動きが活発化する中、風力や太陽光といった再生可能エネルギーの発電量をしっかり予測してマネジメントしようとする気運が高まっている。そこでも、気象シミュレーションは大きな貢献が期待されている。

こうした時代の要請を受け、気象シミュレーションを扱う企業も現れてはいるが、大手エネルギー事業者が自社で手がけているケースは大阪ガスを置いて他にはない。シミュレーションは予測しただけでは意味がない。それを用いる現場とすり合わせして役立てられて初めて有益性を持つ。その点、大阪ガスではグループ内に「シミュレーションを行う部門」と「その予測を運用に役立てる現場」の両方を持っているため、シミュレーションに用いるデータを入手しやすく、「予測」と「振り返りによるさらなる精度向上」の両方を効率的に実現できる。これは大きなアドバンテージといえよう。

エネルギー以外の商材として
社外への提供を構想中。

音の伝搬解析のイメージ

大阪ガスでは風況や気象以外にも、数多の分野でシミュレーション技術を開発している。今は主に社内ニーズに応えるかたちで提供しているが、いずれ近いうちにエネルギー以外の商材として社外へ提供していこうと構想中だ。大阪ガスはこれまでさまざまな顧客にエネルギーを提供してきた関係で、多彩なチャネルのさまざまなニーズをつかんでいる。そうしたニーズにシミュレーション技術で応えることができれば、今はイメージすらしていない領域で活用を期待できるなど、シミュレーション技術には未知の可能性がひろがっているに違いない。

プロフィール
  • エネルギー技術研究所
    シミュレーションチーム マネジャー
    西村 浩一(気象予報士・博士(工学))
  • エネルギー技術研究所
    シミュレーションチーム
    高谷 怜(気象予報士)

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